川崎病類似マウス血管炎と血清MPO-ANCAの検討 (2)
-MPOノックアウトマウスを用いた解析-

○大原関利章、高橋 啓、大川原明子*、荒谷康昭**、若山 恵、 渋谷和俊、鈴木和男*、
直江史郎 東邦大学医学部付属大橋病院病院病理学講座、国立感染症研究所生物活性物質部*、横浜市立大学木原生物学研究所生物工学部門**
 川崎病でも時に血清MPO-ANCA値が上昇するとの報告がある。昨年の本研究会で、我々が検索を続けている川崎病類似マウス血管炎モデルにおいて血管炎と血清MPO-ANCA値が密接に相関することを報告した。今回は、この実験系にMPO-KOマウスを応用し、血管炎とMPO-ANCAの関連についてさらに検討を加えた。
【材料と方法】C57BL/6NをバックグラウンドとするMPO-KOマウス(KO群)およびC57BL/6N (対照群)(4週齢、雄、n=各5)を使用した。川崎病罹患児糞便からCandida albicansを分離し、従来の方法を用いて菌体抽出物を作製、1回あたり4mgの抽出物をPBSに懸濁し、実験第1,5週に各々連続5日腹腔内接種した。第9週に心臓血にて屠殺、病理標本を作製し、血管炎の有無を検討した。一方、血清MPO-ANCA値はヒトMPO-Vを抗原とするELISA法にて測定した。
【結果】血管炎発生率は、KO群 40%、対照群 100%で、対照群に比して低率ながらKO群でも血管炎の発生をみた。血管炎は、冠状動脈や大動脈をはじめとする中型および大型動脈に分布し、好中球、組織球を主体とする増殖性肉芽腫性炎の像を呈している。両群間に明らかな組織学的差異は認められない。また、細小動脈レベルの血管炎や半月体形成性腎炎はみられていない。一方、血清MPO-ANCA値を測定すると、KO群 95.8±63.5hEU、対照群 234.1±172.3hEUであり、対照群で有意に高値を示した(p<0.05)。また血管炎発生率の低いKO群の中では、血管炎(+)マウスの 血清MPO-ANCA値は血管炎(-)のそれより高い傾向にあった。
【考察】対照群と比較してKO群で血清MPO-ANCA値は低値を示した。即ちMPO-ANCAの標的分子としてMPOが重要である結果を得た。しかしながら、KO群の中にも血管炎をみる個体がある。これらの血清MPO-ANCA値は血管炎がない個体よりも高い傾向を示したことから、MPO-ANCAの標的分子としてMPO以外の物質が存在し血管炎に関与する可能性が示唆された。
川崎病冠動脈障害の免疫組織化学的検討:冠動脈炎と血管リモデリング
1)東京逓信病院小児科: 〇鈴木淳子
2)東京女子医大心研: 富田幸子、小松敬子、中澤 誠
3)明石市民病院: 大塚拓治、河瀬昌司、川端健二
{目的}川崎病急性期の血管炎およびその後の冠動脈リモデリングのメカニズムを免疫組織化学的に検討した。
{方法}用いた抗体は抗各種内膜増殖因子(TGFb1,VEGF,bFGF,PDGF-A)抗体とVEGFリセプターのFlt-1とKDR/Flk-1、iNOS,血管平滑筋細胞のマーカーとしてa-アクチン、マクロファージ/単球(CD68),血管内皮前駆細胞と血管内皮細胞のマーカーとしてのCD34等の抗体である。
{対象}川崎病急性期(発症後15日)1例と回復期(2ヶ月半から12ヵ月半)に死亡した5例のホルマリン固定冠動脈標本を免疫組織染色した。
{結果}急性期:マクロファージ、単球、好中球、リンパ球等が外膜側より中膜を断裂して浸潤しているのが認められた。炎症に関与するVEGFやTGFb1がこれらの細胞に強く発現した。回復期には内皮細胞下に大量の細胞外マトリックス(ECM)の蓄積がみられ、ECMによる閉塞も5例総てに認めた。発症後2ヵ月半の閉塞部のECMは柔らかいゼリー様で炎症細胞浸潤を認め、7か月を経た例では閉塞部のECM内に紡錘状細胞、細網線維、マクロファージと無数の微小血管形成が見られた。それらの内皮細胞は成熟内皮細胞マーカーであるFactorVIIIの発現は見られず、VEGFとKDR、CD34の強い発現を認めた。また外膜側から内膜深層の帯状浮腫層に各種細胞浸潤が認められ、その中のCD34+細胞やKDR+細胞の存在はECM内での vascularizationを示唆した。12ヵ月半後には炎症性細胞浸潤は極く僅かとなり、PDGF-AやTGFb1を強く発現する平滑筋細胞と線維化層でECMは蔽われた。
{考案}発症後長期にわたり炎症性細胞が内膜へ浸潤し、分化、増殖、血管新生するのを認めた。内膜肥厚と閉塞予防の目的で現在行われている抗血栓療法に加え分子レベルからの治療法の必要性が示唆された。
臨床的に冠動脈病変を認めなかった川崎病既往児の1剖検例
西神戸医療センター小児科:○深谷 隆,馬場 國藏
東邦大学大橋病院病理学講座: 高橋 啓,直江 史郎
神戸市立中央市民病院小児科: 冨田 安彦,齋藤 潤,上村 克徳
神戸大学医学部法医学教室:  上野 易弘
冠動脈に異常を見ることなく経過観察した川崎病例を剖検した.病理学的にも冠動脈の異常は見いだせなかった.本症患児の経過観察に重要な示唆を与えるものと考え報告する.
(経過)川崎病に1歳0ヶ月で罹患し,死亡時年齢2歳1ヶ月の男児.個人歴,家族歴に特記事項なし.入院時(第5病日)には発熱,眼球結膜充血,口唇発赤,発疹の4主徴を認めた.BCG痕の発赤もみられ,第5病日と第6病日にγグロブリンをそれぞれ1g/kg投与した.また,アスピリン30mg/kg/日を経口投与した.第7病日に解熱し,第10病日から指端の膜様落屑がみられた.第7病日から第9病日にかけて嘔吐が見られたが,第12病日に軽快退院した.心エコー検査で,第6病日にごく軽度の心嚢液貯溜がみられたが,冠動脈の異常は見られなかった.第58病日まで外来で経過観察し,心エコー検査で異常所見がないことを確認した.
(死亡時状況)平成12年2月4日から発熱があり,2月5日午前7時30分ころ,母親が目覚めた時にはうつ伏せになり,死亡していた.
(解剖所見)肉眼的に,気管,気管支内に淡黄緑色の粘稠液を多量に認め,気管・気管支粘膜の発赤と溢血点から,死因は急性気管支炎が推定された.心臓は58g,心筋に高度のうっ血あり.冠動脈は組織学的に構築の破綻や再構築像はなく,正常範囲といえる内膜肥厚が軽度に見られるところがあったに過ぎない.
(要約)本例は,臨床的に冠動脈瘤を合併しない川崎病例に,病理学的にも異常所見が認められない場合があることを示している.一般に,急性期に冠動脈瘤を合併しなかった川崎病例でも,成人後長期にわたり経過観察が必要とされている.その最大の理由は,冠動脈瘤を合併しなかった例でも動脈炎後の変化が,成人期に動脈硬化への危険因子になる可能性が考えられていることであろう.川崎病に罹患したが,冠動脈に著変を残さなかった本症例のような知見が集積されれば,今後の経過観察の考え方に多大な影響を与えるものと考えた.
急性期川崎病冠状動脈瘤非形成剖検例の病理組織学的検討
東邦大学医学部附属大橋病院病院病理学講座
○高橋 啓、大原関利章、直江史郎
 川崎病剖検例における病理組織学的検索は、これまで死に直結する冠状動脈瘤形成症例を中心として行われてきたが、異常を来さないか異常を残さずに治癒する多くの川崎病罹患児の冠状動脈変化を推測することを目的として、急性期死亡例の中から冠状動脈瘤非形成例に対して病理組織学的観察を施行した。
【検索対象・方法】 瘤としての認識が1枝以上の冠状動脈で不可能であった9症例を検索対象とした。死亡病日は6,9,10,13,17,20,28日である。これらの冠状動脈病変に対してHE染色、弾性線維染色、膠原線維染色を施行し光顕的に観察した。
【結果】 6病日例の冠状動脈には内膜と外膜に炎症細胞浸潤を認めたが汎血管炎には至っていなかった。9-13病日例の冠状動脈では、6病日例と同様に内・外膜に炎症細胞浸潤をみるが内弾性板や中膜に破綻のない軽微な変化から全層性の強い炎症を伴うものまで様々な炎症像がみられた。一方、発症後17病日以降の冠状動脈には、浮腫性の内膜肥厚のみの変化や軽度の炎症細胞浸潤を動脈全層に伴い内弾性板が進展されるものが存在した。症例は強い心筋炎あるいは弁膜炎または間質性肺炎を伴っており、これらが直接的死因と推測された。
【考案】 動脈瘤非形成例は冠状動脈炎が存在する場合と存在しない場合とに分けられ、前者には瘤形成に至る前の炎症初期の病変と瘤形成が引き起こされない程の軽微な炎症にとどまる病変とが含まれると考えられる。今回検索した13病日以内の発症早期死亡例の中で強い炎症細胞浸潤を伴う病変は動脈瘤形成に至るまでの一過程を観察しているにすぎない可能性がある。しかし、その一方で、炎症細胞浸潤が軽微であるために瘤の形成に至らない症例が存在することも確認できた。このような場合、病変は何の瘢痕像も残さずに治癒するか、軽微な瘢痕が残存したとしても発達に伴う生理的内膜肥厚に取り込まれその痕跡を残さない可能性があると推測された。