川崎病21世紀への展望:疫学の立場から
自治医科大学公衆衛生学 ○中村好一
 疫学は「人間集団における疾病頻度やそれを規定する因子を明らかにする学問」とされている.その背景にある考え方として,「疾病発生はすべてのヒトで同じ確率で起こる現象ではない」,従って「どのような背景を持つヒトで発生確率が高いかを観察することにより,有効な予防対策を示すことが出来る」ということがある.そして,疫学の最終目標は,疾病やimmature deathの予防である.
 川崎病が初めて報告されてから既に30年以上が経過する.わが国においては過去15回の全国調査により,疾病頻度は明らかにされたが,頻度を規定する因子については現在に至るまで,性別と同胞患者ぐらいしか確定的なものがない.これはある意味で「疫学の敗北」ともいえる.しかし疾病発生を「川崎病発生」と捉えるとこのような理解になるのであり,「川崎病による○○○」と考えると,21世紀に引き継いだ課題は,まだ多く存在する.
 記述疫学研究である全国調査は,罹患率の推移,心後遺症合併割合の推移など,今後とも世界に対して情報を発信していくためにも,継続して実施していく必要がある.長期予後についても,初期の患者はそろそろ中年期に到達しているため,脳血管疾患,虚血性心疾患などの循環器疾患の罹患率が高くないかどうかをきちんと示す必要があろう.また,川崎病の親子例も散見されるが,親の川崎病の既往が子どもの発生確率に影響を与えているかどうかを明らかにすることは,原因論につながっていく可能性もある.治療法の評価を全国調査など既存のデータで行うことについては,かなり難しい面もあるが,可能な限り知恵を絞って症例対照研究などを行っていくべきであろう.
 個人情報保護との関連で,疫学研究には逆風が吹きつつある.このような問題を克服し,問題の解決を今後とも目指していきたい.
川崎病急性期治療の総括と展望
-IVGG1g・2g/kg例の追加投与と補助療法-

東邦大学第一小児科
○石北 隆、関口恭子、加藤摩耶、竹内大二、
 中山智孝、小澤安文、松裏裕行、佐地 勉
 川崎病急性期の治療は潜在する心筋障害の改善、冠動脈後遺症の予防を目的とする。冠動脈瘤の形成される第10病日前後までに炎症を軽快させることが重要である。血管周囲組織における O2-、各種サイトカインなどによる組織障害因子を標的とした治療と、凝固系や循環動態に配慮した抗血小板療法、血管拡張薬投与などの併用が望ましい。我々は83年のIVGG投与導入後、93年より1g/kg投与を開始、96年以後は選択的に2g/kg投与を行なった。93年1月より2000年6月までの7年6か月間の急性期川崎病総入院患者数は222例であり、心後遺症例は11例(4.95%)(拡張6例:2.70%、瘤4例:1.80%、巨大瘤1例:0.45%)、心筋梗塞0%、死亡例0%であった。
【目的】93年1月〜2000年6月までの急性期川崎病222例のうち第7病日以内にIVGGを開始した177例を対象として治療法と発症1か月以後の冠動脈後遺症について検討した。アスピリンは全例に投与した。(アスピリン単独24例、アスピリン+UTI 4例、IVGG400mg/kgx5日5例、第8病日以後にIVGGを開始した12例、計45例は除外した。)
【結果】
1g/kg 開始例 143例 CAL 2g/kg開始例34例 CAL
IVGG単独 86 - 12 -
+PSL 5 D,GAN 6 AN
+PSL+UTI 1 - 1 -
+UTI 11 - 10 -
+追加投与 14 D,AN - -
+追加投与+PSL 9 D 2 AN
+追加投与+PSL+UTI 6 D 2* -
+追加投与+UTI 11 D 1 -
D:拡張, AN:瘤, GAN:巨大瘤, *1例はMPSL,(除外例でD1例, AN1例あり)

 重症例には抗血小板療法に加え、利尿薬、血管拡張薬、アルブミン補充などを適宜行なった。1g・2g/kg単独が著効した例では後遺症はなかった。
【考察】IVGGは有効な治療法であり、約半数の症例は1g/kgの投与で著効する。1〜2g/kgを投与しても改善が得られない症例には病態、病日を考慮し、追加投与、PSL、UTI他補助療法を行なうべきと思われる。2g/kg不応症例には時期を逸せずにステロイドパルス療法も試みる価値がある。
後遺症治療
久留米大学小児科  赤木禎治,石井正浩,家村素史,加藤裕久
 川崎病の急性期治療にガンマグロブリン療法が用いられるようになって心血管病変の発生頻度は明らかに低下したが,その発生を完全に抑制するには至っていない.遠隔期後遺症の問題として,(1)残存する冠動脈病変(特に狭窄病変)に対する治療,(2)冠動脈病変の退縮を認めた患者の管理と問題点,について検討した.
 川崎病の冠動脈病変は,約半数に発症後2年以内に退縮を認めること,遠隔期になっても徐々に狭窄病変へと進行する例があることが特徴である.このような狭窄病変では,狭窄の程度が強くても虚血所見に乏しい場合がある.このため通常の検査では不十分なことが多く,最終的にはフォローアップの冠動脈造影が必要である.川崎病冠動脈病変に対する治療は,従来のバイパス手術に加え,カテーテル治療の有効性が認められてきた.特にロータブレーターは,石灰化の強い狭窄病変に対しても有効性が高い.一方,カテーテル治 療では,血管内エコーによる冠動脈病変の評価,適切なデバイスの選択,さらに熟練したカテーテル手技,が要求される.退縮した冠動脈病変の長期予後として血管内皮機能が存在することが指摘されている.我々は急性期の冠動脈瘤が直径4mm以上の症例では,遠隔期にも血管内皮機能異常が高率に認められることを確認した.同時に血管内超音波法を用いて冠動脈壁の構造を評価すると,内膜の肥厚を主体とする血管壁の三層構造や石灰化が確認された.一方,急性期より冠動脈病変を有しなかった部位や一過性の拡大のみで早 期に退縮を認めた部位では,正常の血管内皮機能と正常の血管壁構造をしている事が確認された. このように川崎病に起因する心血管病変の長期予後が明らかになるにつれ,その対応策は確立してきている.今後は小児期より成人期にかけた,内科医を含めた,より長期のフォローアップ体制について検討する必要がある.