IVGG不応症例への治療戦略
東邦大学第一小児科 佐地 勉
共同研究者 石北 隆 中山智孝 星田 宏 内野由美子 松裏裕行
 IVGG不応例は治療上冠動脈瘤合併の最重要因子と考えられる。
【定義】初回単回投与終了後48時間以内に明らかな解熱なく、臨床検査(WBC、CRP)の改善が少ない場合。
【機序】GGの最大の消費部位は血管内皮細胞と考えられるが、代謝、血中循環動態に関しては不明である。
【頻度】施設間の基準の違いを考慮しても、概ね15〜25%。
【当施設の結果】総数231例、IVGG単回投与196例中CAL3.9%(全国平均7.52%)で、1ヵ月後の拡張4、瘤4、巨大瘤1(7病日の開始時瘤あり)であった(CAL群:平均開始4.9病日、WBC19,933、CRP 18.6、解熱病日10.9日)。CRP<12mg/dl(全体の71%)への1g/kg投与では30%が不応例だが、CRP≧12mg/dlに対する2g/kg投与では60%が不応例であった。
【不応予測因子】3病日以内、乳児例、年長児例、強度のリンパ節腫脹例、白血球15,000以上、CRP 12mg/dl以上、WBC,CRP低下率20〜30%以下、投与後血中IgG上昇不良等に頻度が高い。
【追加治療の選択】望ましい治療完結病日(第9病日)までに時間的余裕がない事が多く、冠動脈発症危険日までに早急に改善させる選択肢が必要。
(1) Steroid Pulse(DIV) :短期で劇的な解熱効果、改善効果に優れている。(2)IVGG追加:効果があるが弱い"くすぶり症例"には追加投与、IVGG後にも体温上昇叉は不変の"不応症例"にはIVGG以外を選択。(3)Ulinastatin:劇的な効果は望めないが一部の症例では併用で補助的効果。(4)Predonin(IV,PO):効果あるが瘤発症のrisk factorで長期に使用すべきではない。(5)Aspirin(PO)大量療法:Predonin使用のriskを考慮すると、血小板凝集能を無視すれば病日によっては見直すべき治療。
【結論】IVGG不応例には、10病日以前に治療が完結できる様他の治療戦略への変更または併用療法を駆使し速やかに炎症所見を沈静化させる方策が望ましい。
プレドニゾロン療法の功罪
大阪厚生年金病院小児科 佐野哲也
 プレドニゾロン療法の中で最近注目されているパルス療法に焦点をしぼり、川崎病血管炎の特徴からみたパルス+γ-グロブリン(IVGG)併用療法の試みについて述べる。(1)急性期川崎病23例の血管反応性の検討では、安静時の上腕動脈径(%of N値)は122±12%と拡大し、反応性充血に対する拡張反応(%of N値)は7±31%と著しく低下していた。発症6か月以降の回復期14例では各々112±13%、83±44%へと改善していた。更に、急性期8例中5例(IVGG前3例,後2例)のニトログリセリンに対する拡張反応(%拡大率で3〜10%)が不良であった。川崎病血管炎では血管内皮障害だけでなく一部では中膜の障害が疑われる。(2)多施設共同研究で112例中22例(20%)がIVGG療法(1g/kg×2日)に不応であった。急性期冠動脈病変(CAL)発生率(50% vs 11%)、1年後のCAL残存率(12% vs 0%)ともIVGG不応例が有意に高頻度であった。IVGG治療前の検査値の多変量解析からCRP≧7.0mg/dL、T.Bil≧0.9mg/dL、AST≧200IU/Lのうち2つを満たす基準でIVGG開始前に不応例を判別できた。(3)IVGG不応ハイリスク例に対しIVGGの前にmethylpredonisolone(30mg/kg)の経静脈投与を加えた新しいプロトコールを開始した。登録数24例中IVGG不応のハイリスク例は5例で全例にパルス+IVGG併用療法を行った。治療終了後24時間以内に解熱したのは3例、解熱しなかった2例中1例はIVGGの追加で解熱、これら4例にはCALを認めなかったが、残る1例はIVGG、ウリナスタチンとパルス療法の追加を行ったが冠動脈瘤を形成した。γ-グロブリンとグルココルチコイドはともにサイトカインを抑制してネットワークを遮断し炎症反応の上流で作用すると考えられるが、実際に阻止する反応段階が異なると予想される。IVGG不応例に対しγ-グロブリンの抗炎症作用以外に炎症反応の複数の段階を阻止できると思われるパルス療法の早期の併用は有望な戦略と考えられる。
血液凝固学的視点からみた抗血栓療法
産業医科大学小児科 酒井道生 白幡 聡
 川崎病は全身の血管炎症候群であり、急性期には血小板および凝固系が活性化し向血栓性に傾く。一方、アスピリン投与やガンマグロブリン療法の導入に伴い冠動脈病変(CAL)の合併は減少したものの、CAL非合併例を含め、川崎病の既往が将来的な血栓性疾患発症のリスクファクターになり得るのかは重大な関心事である。そこで我々はこれまで、急性期および遠隔期の川崎病患児を対象に凝血学的研究を継続してきたのでその成績を報告する。まず、急性期には、血小板および凝固系のみならず線溶系も変動し、特に線溶能の低下する症例でCAL合併が高率であった。一方、遠隔期には、CAL合併例に高率ではあるものの非合併例においても、血小板凝集能の亢進や血栓性疾患発症のリスクファクターとされるPAI-1の高値を呈する症例を認めた。本シンポジウムでは、アスピリン療法を中心とする現行の抗血栓療法を見直すと伴に、新しい抗血栓療法の可能性についても言及する。
カテーテルインターベンションとグラフトの長期予後
久留米大学小児科 赤木禎治 石井正浩 加藤裕久
 川崎病急性期治療の改善により冠動脈病変合併率は低下してきているが、いまだ冠動脈後遺症を完全に予防するには至っていない。冠動脈病変合併例のうち10〜20%は虚血性病変へと進行する危険性がある。従来、虚血をともなう冠動脈狭窄病変には冠動脈バイパス術が施行されてきた。しかしながら、川崎病冠動脈病変では動脈瘤と狭窄病変の混在する複雑な冠動脈形態であること、冠動脈壁に高度の石灰化を伴うことが多いこと、さらに乳幼児例では対象とする冠動脈や内胸動脈そのものが細いことなど、成人冠動脈バイパス術と比べさまざまな困難が加わる。事実、川崎病冠動脈バイパス術の長期開存率−特に幼小児に対するバイパスグラフトでは−は満足の行く状態には至ってない。一方、近年川崎病冠動脈狭窄病変に対するカテーテル治療の経験が増加してきている。昨年施行した川崎病冠動脈狭窄病変に対するカテーテル治療に対する長期予後に関する調査研究をもとに、現時点における治療選択の可能性について検討した。88症例に対し、計101回のカテーテル治療が施行された。PTCA:22回、PTCRA:68回、stent:11回。5年非再狭窄率はそれぞれ66%、69%、91%で、stentは他の2群と比べ、有意に高い開存率を示していた。PTCA群はPTCRA群に比し有意に早期再狭窄率が高く、再狭窄の多くは(78%)閉塞していた。川崎病に対するカテーテル治療は、成人の治療成績と同等もしくはそれ以上の短期および長期治療成績であった。冠動脈バイパス術後の吻合部狭窄に対してもPTCAを施行することにより、バイパス術の追加を回避できる可能性が指摘されている。適切な治療法の選択と手技の向上により、カテーテル治療はさらに良好な治療成績を得ることが可能と思われる。今後はカテーテル治療と冠動脈バイパス手術、それぞれの利点を生かした治療選択を行っていく必要がある。
ウリナスタチン療法は有効か?
防衛医科大学校小児科 竹下誠一郎 川村陽一 中谷圭吾 辻本 拓 徳富智明 関根勇夫
 川崎病(KD)急性期においては末梢血中の好中球数が増加し、elastase等のproteaseや活性酸素が産生され、血管内皮細胞障害に関与すると考えられている。最近、protease阻害剤であるウリナスタチン(UTI)がKD急性期の治療として有効であると報告されている。また我々は、in vitroの実験において活性化好中球が介するヒトの血管内皮細胞障害をUTIが抑制することを確認し、KD血管炎に対して有効であることが示唆された。
 防衛医大病院小児科では1998年10月以降、KD全例(n=103)に対してUTIを入院早期から投与するプロトコールを作成し、IVIG超大量療法(1gまたは2g/kg/回)と併用している。UTI単独で治療したのは15例のみで、残りの88例はIVIG超大量療法を併用した。急性期の冠動脈病変(CAL)は7例(6.8%)で、発症6ヶ月後に残存したのは1例のみであった。血中UTI濃度およびelastase濃度を測定した結果、UTI投与前の血中UTI濃度及びUTI/elastase濃度比は、CAL(+)群の方がCAL(-)群に比較して高値の傾向を認めたにも関わらず、UTI投与後ではCAL(+)群の方がむしろ低い傾向を認めた。
 現行のIVIG療法だけではCAL発生を完全に防止できないため、何らかの薬剤による併用療法が必要と考えられ、UTIはその有力な候補の1つである。しかし、実際のUTIの臨床的な炎症抑制効果はIVIGに比較して弱く、現時点ではUTI療法はIVIG超大量療法の補助的な治療法の1つとして位置づけるべきと我々は考えている。また、KD重症例において現行のUTI投与法では十分な血中濃度に達しない可能性が示唆され、今後の検討課題と考えられる。