動脈硬化性疾患における炎症の役割 「次世代医療としての炎症制御による血管内医療システムの創製」
| 九州大学大学院医学研究院循環器内科学 江頭健輔 |
【動脈硬化性疾患と炎症】動脈硬化性疾患(再狭窄、急性心筋梗塞、脳梗塞、など)は内皮細胞障害に起因する血管壁の慢性炎症性疾患と考えられている。早期から内皮障害をトリガーとする慢性炎症(単球・マクロファージの接着浸入・活性化)が認められるだけでなく、再狭窄病変や急性冠症候群の責任感動脈病変部位に活動性の慢性炎症が顕著に生じる。C反応性蛋白の炎症マーカーとしての役割が臨床研究により明らかにされている。
【新規遺伝子治療法の開発】我々は単球・マクロファージのケモカインである単球遊走促進因子(monocyte
chemoattractant protein-1、MCP-1)に着目し、その機能を生体レベルで阻止できる新しい抗炎症(MCP-1)治療法を開発した。すなわち、MCP-1のN末端欠失体7ND(N末端の2番目から8番目までのアミノ酸の欠損)がMCP-1の強力な抑制因子として作用すること、7NDプラスミド遺伝子導入によってMCP-1による単球浸潤を著明に抑制できること、を明らかにした。
【有用性と安全性】この抗MCP-1治療法によって実験的再狭窄(バルーン傷害後内膜肥厚・陰性リモデリング、ステント後内膜肥厚)が抑制された。動脈硬化病変の発生、進行、安定化がもたらされた。内皮再生は影響されなかった。とくに霊長類(カニクイザル)において、退縮とプラーク安定化が誘導された。一旦MCP-1発現が亢進し炎症が成立すれば多くのサイトカイン・増殖因子の発現が増加し雪だるま式に炎症・増殖が促進されることも明らかになった。培養細胞レベルで7NDは、単球遊走と平滑筋遊走・増殖を抑制した。しかし、内皮遊走能(血管新生)には影響しなかった。これらの成績から、炎症が動脈硬化病変の全てのステージにおいて重要な役割を果たすことが明かとなった。副作用(急性毒性、抗原性、免疫異常、アレルギー)は認めなかった。
また、抗MCP-1療法が移植後動脈硬化、腎炎、関節リウマチ、病的血管新生、肺高血圧症、線維症等の難治性炎症性疾患にも有用である。
【結論と展望】これらの成績から、動脈硬化の分子機構における炎症仮説が検証できたと考える。MCP-1をターゲットとした治療が動脈硬化性疾患に対する新しい治療になるであろう。アンジオテンシン受容体拮抗薬、アスピリンやスタチンの抗動脈硬化作用の一部に“抗炎症”が関与することが示されている。現在、我々は再狭窄に対する7ND遺伝子溶出型ステントを開発し臨床応用を目指している。将来、新規抗炎症療法の開発によって新たな炎症パラダイムが構築されるときを迎えるのは遠くないであろう。
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