急性期での血管内皮障害の病態とリモデリング
千葉大学大学院医学研究院小児病態学 寺井 勝
 川崎病は乳幼児に好発する急性熱性疾患で全身の血管炎で非心臓性浮腫を特徴とする。わが国では年間約8千人の患者発症がみられる。現行ではγグロブリン大量静注が保険で承認された有効な治療法であるが、治療抵抗例が約15%にみられる。これら難治性川崎病では冠動脈瘤の発生リスクが高く、腫瘍壊死因子などのサイトカインを標的とした新たな治療も米国で試みられている。
 急性期川崎病の血管炎動態の特徴のひとつは病初期よりplasma leakageによる浮腫性病変がみられることである。病変部は初期には毛細血管や微小動静脈に限局しているが、やがて、中型筋型動脈、中型静脈に炎症の場が拡大していく。そこにはvasa vasorumの炎症も関係しているであろう。
 臨床症状に目を向けると、四肢末端の硬性浮腫や皮疹、関節腫脹、腸管粘膜浮腫などはいずれもplasma leakageを伴っているものと考えられる。重症例ではplasma leakageが進行し、強い低アルブミン血症がみられるようになる。一般に、心臓性浮腫は静水圧上昇による血管外への水分の漏出によっておこる。これに対し、川崎病の浮腫は血管透過性の亢進によりおこると考えられ、アルブミンなどの血漿蛋白が血管外へ漏出し血管外浮腫が増強する非心臓性浮腫である。従って、治療的観点からみると、利尿剤などの抗心不全療法ではなく、plasma leakageの制御が極めて重要となってくる。その意味では、サイトカインを標的とした新たな抗炎症薬による治療評価は重要であろう。
 わたしたちは、以前より川崎病急性期の病態解析をおこなっている。川崎病にみられる病態の特徴をとらえることで、その病態を推し進めている主要な因子を見つけ、これら病態の進行を止めるためにはどのような治療が望ましいか?こうした作業を蓄積することは、病因を考え直すひとつの方向性でもあり、重症川崎病例の新たな治療戦略にも貢献できるものと信じている。本シンポジウムでは、シンポジウムのメインテーマである血管内皮障害の進展のうち、急性期に焦点を絞り、最近の知見やわれわれの取り組みを紹介し、急性期川崎病血管炎の病態と治療展望を論じる。
川崎病の遠隔期の血管内皮機能および治療戦略
北里大学小児科 石井正浩
【目的】本研究では、川崎病の血管内皮機能を観血的および悲観血的検査により評価した。血管内皮機能低下例では抗酸化作用を持つVitamin C (Vit. C)を投与して、その治療効果を検討した。
【方法】冠状動脈血管内皮機能:10年以上(14.8 年)経過した川崎病患児65例に対して冠動脈内に内皮依存性の血管拡張作用を持つアセチルコリン(Ach)15μgおよび内皮非依存性の血管拡張作用を持つニトロール(ISDN)0.5 mgを冠状動脈に注入し、それぞれの薬剤注入前後の冠状動脈造影により得られた冠状動脈径の変化率を求めた。非観血的血管内皮機能検査法:Flow mediated dilatation(FMD)による血管内皮機能評価:平均観察期間10.8±1.8年の高度の冠状動脈病変を有する遠隔期川崎病既往児13例(13.0±1.4歳)に対して血管内皮依存性の拡張であるFMDおよび血管内皮非依存性の拡張作用をもつnitroglycerinによる拡張(NTG-D)を行い、超音波装置で得られたそれぞれ前後の肘動脈径の変化率を求めた。3ヶ月Vit. C (2000mg/day)内服し血管内皮機能を検討した。
【結果】冠状動脈血管内皮機能:冠状動脈が残存した症例15例および狭窄病変を有する18例はAchおよびISDNに対して拡張性の低下を呈した。冠状動脈瘤消退した26例ではAch注入により冠状動脈が収縮した(-7%)。ISDN注入では拡張を示した(11%)。急性期より冠状動脈病変を有しない6 例 では、Ach(12%)および ISDN(16%)により共に対照群と有意差を認めない冠状動脈の拡張を呈した。非観血的血管内皮機能検査法:高度の冠状動脈病変を有する13例のFMDは(4.2%)と有意に低下していたが、NTG-Dは(23%)と対照群との間に有意差を認めなかった。以上より血管内皮機能低下が示唆された。3ヶ月間のVit. C内服により全例FMDが改善した(10.3%)。
【結語】川崎病遠隔期の血管内皮機能は冠状動脈傷害が残存した部位のみならず、消退した部位においても低下していた。Vit. Cは、血管内皮機能を改善させ動脈硬化病変への進展を抑制する効果が期待できる。
川崎病遠隔期における血管内皮機能の検討−酸化ストレスとの関連−
京都府立医科大学大学院医学研究科発達循環病態学 二星あゆみ
 川崎病(KD)遠隔期における血管内皮機能障害の残存及び早期動脈硬化発症の可能性について、酸化ストレスとの関与の点から検討した。
【検討1】対象及び方法:発症後5年以上経過した(平均12.2年)KD137例【A群:CAL(+) 25例、B群:一過性冠動脈障害 29例、C群:CAL(-) 83例】およびage-matchした対照 509例。代表的酸化ストレスマーカーである尿中8-isoprostane(pg/ml・creatinine):EIA法、血管内皮機能の指標として尿中NOX(μM/creatinine):キャピラリー電気泳動法、Pulse Wave Velocity;PWV(cm/sec)を計測した。結果:尿中8-isoprostaneはKD各群において対照群より有意に高値をとった(A群 967.1±605.6、B群 912.4±783.8、C群 1036.5±1086.6、対照群 513.9±436.7)。尿中NOXは、A群のみ対照群より低い傾向にあった(A群 1.29±0.75、B群 1.49±1.02、C群 1.37±1.04、対照群 1.63±1.58)。尿中8-isoprostaneと尿中NOXとの間に明らかな相関は認めなかった。対照群のPWV値から得られた回帰曲線の95%信頼区間に外れる PWV高値例は、KD中137例中20例(14.6%:A群5例、B群4例、C群11例)にみられ、男性に多く(17例)、5例で尿中8-isoprostane高値を認めた。
【検討2】さらに詳細に検討するために高血圧、高脂血症、糖尿病のないKD遠隔期例22例(平均24.1才、発症後平均21.5年: A群10例、B群3例、C群9例)を対象に、内皮細胞障害マーカー;von Willebrand 因子、線溶系マーカー;tPA-PAI-1、血液凝固系マーカー;TAT、内皮依存性血管拡張であるFMDを計測しその拡張率(%FMD)、など各指標を検討した。これらの指標とともに慢性炎症の指標としてhs-CRP、酸化ストレスマーカーとして尿中8-isoprostaneを併せて評価した。動脈硬化危険因子を有さない成人8例(平均27.9±4.9)を対象とした。結果:上記パラメーター中では、TAT(7/22例:31.8%)、高感度CRP(5/22例:22.7%)に高値例を認めた。硝酸イソソルビド口腔内噴霧後の内皮非依存性血管拡張率(%NTG)は両者に差を認めなかったが、FMDはKD群で明らかに低下していた(KD群 11.3±3.4、対照群 15.0±1.5)。10%以下の低値例はKD22例中8例で、A群に多く認められた(5/9例:55.6%)。各パラメーターと尿中8-isoprostaneの相関は明らかではなかったが、8-isoprostane高値かつ%FMD低値をとる例をA群3例に認めた。
【結語】1.KD遠隔期において、酸化ストレスが生じやすい状態にあった。2.尿中NOX/CreはCAL(+)群で低い傾向があり、PWVは男性においてCAL(+)群や一過性拡大群で高い傾向にあった。3.%FMDやTATの異常から、KD遠隔期例、特にCAL(+)では、血管内皮機能異常が残存する傾向がある事が示された。今後内皮細胞障害における酸化ストレスの関与についてさらに検討していきたい。
ヒト冠動脈の新生内膜増殖・動脈硬化と川崎病血管炎
大阪市立大学大学院病理病態学 上田真喜子
 血管分子生物学の長足の進歩や冠動脈インターベンション治療の爆発的な普及などと相まって、1980年代以降、ヒトの冠動脈硬化や新生内膜増殖に関する病理学が、それ以前の時代に比べて飛躍的に進歩した。特にPTCAやステント後の再狭窄研究の進展により、ヒトの新生内膜形成過程における平滑筋細胞の脱分化・再分化の概念が明らかになるとともに、平滑筋細胞の遊走・増殖メカニズムが平滑筋細胞の分化度、増殖因子、血管作動性物質などの面から解明された。さらに、ヒトの冠動脈硬化におけるプラーク不安定性や血栓形成に関する知見も飛躍的に増大し、プラーク炎症、内皮細胞傷害、血栓形成などの密接な相互連関も明らかになってきている。
 ヒト冠動脈硬化病変の大きな特徴として、初期病変(early lesion)と進行病変(advanced lesion)との間の形態像の著明な変遷が知られている。経過(おそらくは20年〜30年の長期の間に)、どのようなメカニズムで動脈硬化病変が進行・不安定化し、最終的に多量の血栓形成に至るのか、特に、ヒトの動脈硬化病変に関与する細胞群や物質群がこの長期の間に、どのようなメカニズムやプロセスで量的、あるいは質的変貌を遂げて不安定性を獲得していくのかを解明することは最も重要であると考えられる。
 近年、小児期の川崎病罹患から長期間を経て、不安定狭心症や急性心筋梗塞を発症する若年者例が報告されている。我々はこれまでの研究から、川崎病により形成された新生内膜肥厚性病変が、動脈硬化性プラーク、さらには不安定プラークへと変遷する可能性があることを指摘してきている。我々の検索では、川崎病例にみられる新生内膜病変は、初期には、分化した平滑筋細胞が主体であったが、5年以上経過した例の一部には、平滑筋細胞の脱分化を伴う動脈硬化性変化が見出された。また、これらの動脈硬化性病変には、apolipoprotein Bの沈着が認められ、また酸化LDL陽性の泡沫細胞の集積も見出された。さらに、川崎病罹患から30年後に不安定狭心症を発症した32歳例のアテレクトミー標本では、多数のマクロファージの集積が認められた。
 これらの結果から、川崎病患者の冠動脈病変は、遠隔期に動脈硬化性プラークに変化する可能性があるとともに、次第に不安定プラークに移行し、急性冠症候群発症に関与する可能性のあることも示唆される。