冠状動脈瘤発生のメカニズムについて
| 東邦大学医学部付属大橋病院病理学講座 高橋 啓 |
私たちは剖検がなされた川崎病症例の病理組織学的検討を継続している。
これらまでに明らかになったことの中に、「川崎病では全身の血管に炎症がもたらされること」、「冠状動脈の炎症は発症後6から8日で始まること」、そして「動脈瘤が発生する場合、それは発症後12日前後であること」がある。つまり、ひとたび動脈の炎症がスタートすると短期間の内に激しい炎症に至り、その結果として瘤が形成される。言い換えると、瘤の発生を防ぐための治療は動脈が破壊される発症後10日迄に完了されなければならない。
冠状動脈構造は、組織学的に内膜、内弾性板、中膜、外弾性板、外膜に分けられるが、この内、川崎病で最も初期に侵されるのは中膜の平滑筋層である。中膜に浮腫(水腫)がおこり、規則正しく配列する平滑筋細胞の間に裂隙、走行の乱れが生じる。この後、直ちに動脈の内側(内膜)、外側(外膜)両側から単球/マクロファージや好中球、リンパ球などの急性炎症細胞が動脈壁に侵入し、動脈構成成分を破壊し始める。発症後10日頃、内・外両側からの炎症細胞浸潤は合流し、動脈壁全層の炎症(汎血管炎)となる。さらに、数日の内に炎症は動脈全周に波及し、動脈構築を保つ上で重要な成分である中膜や内弾性板は激しく傷害を受け、脆弱化した動脈は動脈内圧のために風船のように拡張を始める。川崎病の動脈瘤は動脈分岐部に生じることが多く、竹の節のように分節状に発生することが多いが、ソーセージの様に動脈瘤がある一定の長さにわたって形成される場合もある。
一方、急性期を過ぎた後に死亡された(遠隔期)症例の多くにおいても、動脈壁には炎症の痕跡(瘢痕)が観察される。特に、大きな動脈瘤を残した場合、瘤壁は石灰化を伴って極めて硬くなり、瘤の前後に狭窄性病変を見ることが多い。また、瘤の血栓閉塞後に再開通を来たした再疎通血管も狭窄、閉塞に陥ることがある。
本シンポジウムでは、急性期の動脈瘤形成に至る組織学的変化を中心に呈示した後、遠隔期の冠状動脈瘤の組織変化についてもふれてみたい。
[共同研究者:大原関利章、直江史郎、増田弘毅、田中 昇] |
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なぜ冠動脈瘤ができたのか 急性期薬物療法の限界は?
| 東邦大学大森病院小児科学第一講座 佐地 勉 |
急性期:免疫グロブリン(IVIG)療法は、単回投与においても約15〜25%に不応例が存在し、発熱や炎症所見の改善が不充分な症例がある。このような症例の中に冠動脈合併症が多い。第17回全国調査(2002-2003年)では,全体の86%がIVIG治療を受けており、65%は900mg〜2,000mg/日が使用されているにもかかわらず、冠動脈拡大13.0%、瘤2.0%、巨大瘤0.3%と報告されており、また2歳以上に巨大瘤の出現が多いとされている。
臨床上、IVIG治療に対する反応の仕方で幾つかのtypeに分類出来る。例えば、
IVIG反応例(IVIG-G)−初回ないし追加投与で良好に反応する
IVIG不応例
@抵抗例(IVIG-R) −全く反応を示さず解熱傾向が無い例
A低反応例(IVIG-W)−効果が弱い例
また後遺症の有無から言及すれば、瘤を残さなかった治療成功例と、適切にIVIGを使用し効果を示したが瘤を形成した治療不成功例とがある。
危険因子:そして、冠動脈瘤形成のRisk Factorsとしては、1)不定形例、容疑例を含めた診断の遅れ、2)IVIG使用開始日の遅れ(概ね7日以上)、3)特に6ヵ月未満の乳児と年長児、4)初回IVIG不応例、5)不応例の判断遅延による二次治療の遅れ、6)
解熱までの期間が10日以上経過、7)ステロイド剤の長期投与例、8)再燃例、7)所謂CRPや白血球数が著しく高い重症例、8)全身管理(浮腫、高血圧、低alb血症、水分貯留等への対処)の対処が挙げられる。
動脈瘤合併回避に向けて
IVIGの使い方は現在2g/kg/1日、1g/kg/日x2日、分割3−5日間、IVIG+プレドニン等で開始されている。
代替療法:不応例、抵抗例に対しては1)IVIG追加再投与、2)静注または経口ステロイド剤(パルス療法、プレドニン療法)、3)静注薬ミラクリッド、4)経口薬アスピリン高用量投与、その他が使用されてきた。しかしIVIG追加投与以外は何れも川崎病に対する使用が承認されておらず、そのため使用経験、報告例とも少なく、系統的な治療計画に基づいた検討が必要である。また新しい治療薬の模索も今後継続して行く必要がある。
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退院後の生活で患者が困っている問題は?
| 川崎病の子供をもつ親の会 小笠原恵子 |
私の息子は21年前川崎病に罹りました。幸い後遺症もなく、青春を謳歌しています。けれども残念ながら後遺症を持ってしまった子供もたくさんいます。
後遺症をもってしまったお子さんの両親の思いがどれほどのものであるのか。我が子の命とかかわるかもしれない重大事です。一生を左右することになるかもしれません。
私は23年間の親の会の活動の中で、患者本人や、その両親の、病気への思いや不安、なかなか言えない病院や医師に対する不満や願いを耳にする機会を持ってきました。それらをお話させていただきます。
1.川崎病の後遺症との付き合いは長期の場合も多く、原因不明でもあり、不安や心配は大きい。投薬、検査、園や学校生活への配慮、病気への理解を得る努力、本人の精神面でのケア等々‥・多くのストレスの中で暮らしている。
2.不安要素の大きな部分は、入院中なら病状の、その後であれば後遺症の、状況や見通しを正確に知ることによって減少する。医師に両親や本人への丁寧な説明をお願いしたい。本人の納得は治療には大切。
医師とのコミュニケーションがスムースになって、救われたという意見は少なくない。双方の努力がよい結果を得たケースもある。
3.患者は一人ひとり違う人であることに気がついて接することの大切さ。
医師にとって当たり前なこと、一般的なこと、心配する必要のないケースであっても、患者にとってはどうか。立場の違いの再認識、想像力が要求される難しいことですが、考えてみていただきたい。
4.些細なことのようですが、先生方の笑顔、ちょっとした言葉かけや心遣いが実は大変大きな救いであり、信頼するきっかけとなっている。
患者と医師(病院)がいっしょになって病気に向かうという姿勢が、多くの問題を解く鍵になる。
以上のような点を具体的な状況や、言葉をもってお話したいと思います。 |
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冠動脈後遺症児に対するカテーテル治療および外科治療
| 日本医科大学小児科 小川俊一 |
川崎病での冠動脈障害は、その多くが冠動脈瘤前後や冠動脈拡大病変部位における求心性血管内膜の肥厚による狭窄性病変と、冠動脈瘤内の血栓性狭窄・閉塞性病変により形成される。また、川崎病の冠動脈障害では時間の経過とともに認められる石灰化を伴う血管壁の硬化の有無を考慮しなくてはならない。さらに、冠動脈後遺症児の多くは、成長の途上にあり、体格の変化に伴う冠動脈病変、冠血行動態の変化も考慮すべき大きな要因である。従って、川崎病の冠動脈障害に対する治療は以上の事を勘案しながら最適な方法を選択しなければならない難しさがある。
基本的には多くの治療法が存在するわけではなく、成人での粥状動脈硬化に伴う冠動脈障害に対する治療法と方法論に変りは無い。まず、冠動脈病変のカテーテルおよび外科治療の適応となるのは心筋虚血、梗塞病変が存在する場合である。治療法は、(1)有意な狭窄性病変を主体とする病変(心筋虚血を伴う病変)
に対する治療法と、(2)主として拡張性病変、特に巨大冠動脈瘤に伴う病変(心筋虚血・梗塞病変)に対しての治療法に大別される。(1)有意な狭窄性病変に対する治療法:@発症より数年以内で、有意な石灰化を伴わない病変に対する治療はバルーンカテーテルによる血管拡大術(PTCA)を行う。体格によりステント挿入も考慮する。A有意な石灰化を伴う病変に対してはロタブレータが適応となる。さらに体格によりステントの挿入も考慮する。BPTCAおよびロタブレータの適応になく、冠動脈バイパス術(CABG)が施行可能であればCABGを行う。(2)主として拡張性病変(巨大冠動脈瘤)に伴い心筋虚血、心筋梗塞を併発した際の治療法:@血栓による急性心筋梗塞に対してはカテーテルによる血栓溶解療法(PTCR)を行う。さらに有意な狭窄性病変を合併している場合には石灰化の有無も考慮しPTCAまたはロタブレータを追加する。その際、体格によりステントの挿入も考慮する。A冠動脈瘤内に浮遊血栓が認められた際には、症例によってはPTCRを施行する。B血栓の存在の有無、狭窄性病変の合併の有無に関わらず、冠動脈瘤(主として巨大冠動脈瘤)自体により血行動態的に心筋虚血が認められた場合でCABGが施行可能な病変であればCABGを行う。
なお、有意な狭窄性病変および拡張性病変が孤立して混在する場合には両者の治療法を組み合わせ適宜検討する。
上記治療を選択する際には、小児循環器医ばかりでなく、循環器内科専門医、血管外科医の意見も合わせその適応を十分検討し、さらに、カテーテル治療施行の際には十分なバックアップ体制の下、施行することが肝要である。
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大人になる冠動脈後遺症児は何を思うのか?
| 川崎病の子供をもつ親の会 橋爪孝奈 |
私は、生後11ヶ月で川崎病に罹患し、残念ながら左右の冠動脈に動脈瘤を残しました。
現在24歳になり、鍼灸マッサージ師の資格を取り、整形外科のリハビリスタッフとして勤務しています。今も年1回の検査と服薬を継続しており、この間5回の冠動脈造影検査を受けています。
自らの病歴と川崎病にまつわる体験を述べ、今、川崎病について、何を思っているか、何を望んでいるか、どのような不安を抱えているのかをお示ししたいと思います。
第一には、川崎病という病気を理解することの難しさと、冠動脈後遺症の病態を理解することの難しさです。川崎病は乳幼児期に罹ることが多く、私の場合もそうですが、川崎病になったという記憶が無く、物心がついた時には、冠動脈障害を抱えた私がいたのです。また、病態への認識も浅いのではないかと思います。冠動脈後遺症が残った場合でも、自覚症状が無い場合が多いようです。私も乳幼児期には両親の言いつけを守りましたが、思春期になると、検査や服薬の大切さを認識しないで、通院の中止や怠薬に陥ってしまったことがありました。この点は川崎病冠動脈後遺症を残してしまった、多くの人がぶつかる問題ではないでしょうか。
第二には、大人になっても小児科を受診しなければならないという、多少の違和感についてです。私も、発病から乳幼児期は小児科で、思春期は循環器内科で、そして現在は、再び小児科の先生に診ていただいています。小児科の先生と比べ、循環器内科の先生は、まだあまり川崎病について詳しくないような気がします。しかし、今後、継続的なフォローアップを考えたときに、ずっと小児科で受診することには、多少の抵抗感があります。
第三には、出産に対する不安です。冠動脈後遺症があるため、抗血小板薬を飲んでいます。そのことによる胎児への影響が心配です。出産時の不安もあります。又生まれてきた子供が川崎病に罹らないだろうかという不安もあります。
この三点を中心に、私なりの意見を述べさせていただきます。 |
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