冠動脈のズリ応力の低下や乱流は、冠動脈瘤や血栓形成を惹起する
大宮医師会市民病院小児科 大久保隆志 
日本医科大学小児科 勝部康弘 深澤隆治 上砂光裕 渡邉美紀 初鹿野見春 阿部正徳 渡邊誠 小川俊一
さいたま赤十字病院小児科 池上英 
【対象】急性期より心エコーにて左冠動脈に瘤を認めた川崎病罹患者111名。年齢は2〜15歳。川崎病発症より検査までの期間は4〜152ヶ月。
【方法】冠動脈造影を施行、冠動脈瘤・狭窄性病変の有無、局在、程度を評価、冠動脈および冠動脈瘤の内径も計測した。次に、冠動脈内にFlow wireを留置、最大平均血流速度(APV)、血流パターン(拍動流と乱流に分類)について検討した。測定部位は、冠動脈瘤内中央部、瘤の近傍の健常と思われる冠動脈内中央部を基本とし、症例によってLADとLCXの分岐部近傍での計測を追加した。また、IVUSで冠動瘤内の血栓の有無・形態を検討した。対象を造影及びIVUS所見から、巨大瘤群(内径8mm超:G群)28例、瘤群(内径8mm以下:A群)44例、正常冠動脈群(N群)39例に分類。さらにN群のうち、LADとLCXの分岐部近傍でAPVが測定可能であった症例を分岐部測定群(B群:21例)とした。なお、狭窄性病変が存在する例は対象から除外した。
【結果】冠動脈瘤の存在部位は、G群では全例、A群では37例(84%)が主要分岐部であった。APV及びズリ応力(血管内径・血液粘調度・APVより算出)の検討では、G群;APV7.1±2.1cm/sec、 ズリ応力3.8±2.1dyne/cm2、A群;APV21.2±2.6cm/sec、ズリ応力48.4±5.2dyne/cm2、N群;APV19.6±2.1cm/sec、ズリ応力3.8±2.1dyne/cm2、B群;APV9.1±1.2cm/sec、ズリ応力;16.2±3.0 dyne/cm2であった。APVは、G群及びB群で他群に比し有意に低下、ズリ応力は、4群間にそれぞれ有意な差を認めた。血流パターンは、G群は全例が乱流パターン、A群およびN群は全例拍動流パターン、B群は16例(76%)が乱流パターンを示した。IVUSではG群全例に血栓(壁在血栓20例、浮遊血栓4例)が認めたが、他群では認めなかった。
【考案】冠動脈瘤は冠動脈主要分岐部に存在し、かつ、健常と思われる主要分岐部においてもズリ応力は有意に低下していた。以上より、ズリ応力の低下が冠動脈瘤の形成に関与している可能性示された。一方、巨大瘤内ではズリ応力は極めて低く、これに乱流の要素が相俟って血栓が形成された可能性が示唆された。
大量免疫グロブリン療法による過剰な血液循環容量負荷と血液粘度上昇負荷が
急性期川崎病の冠動脈拡大性病変を引き起こす可能性について

岐阜県立多治見病院 中野正大
【背景と目的】免疫グロブリン大量投与直後から冠動脈の拡大性病変が日毎に進行し、冠動脈瘤を形成した1例を経験した。免疫グロブリンの大量投与による血液循環の過剰な容量負荷と血液粘度上昇負荷が、冠動脈の拡大性病変を惹起する可能性について報告する。
【症例】生後5ヶ月男子、第6病日近医にて川崎病と診断され紹介入院。川崎病主要症状6項目、CRP13.3mg/dl、WBC14100、Alb2.7g/dlなどを認め、直ちにウリナスタチン5万単位×6回/日投与開始。CRP、全身状態の改善を認めていたが、第12病日症状の再燃、WBC32300、Alb2.2g/dlなどを呈したためハイリスク例と診断した。家族に免疫グロブリンの併用を勧めたが、血液製剤であることを理由に同意が得られなかった。第15病日UCGにてごく軽度の冠動脈の拡張性変化を認めた。家族の同意が得られたため、免疫グロブリン1g/kgを同日と第17病日に投与した。第17病日から冠動脈の拡張性変化が明瞭となり、その後日ごとに冠動脈が拡張しLCA5oRCA7oまで拡大した。
【考案】1)第9病日以降の免疫グロブリン大量〜超大量投与後に中瘤・巨大動脈瘤を形成した症例が少なくとも62例報告されている。2)病理学的検査によると第9病日以降には汎血管炎による血管壁の脆弱化が起っている。3)免疫グロブリンの大量投与は血液循環に過剰な容量負荷と血液粘度上昇負荷を与える可能性がある。よって第9病日以降の免疫グロブリン大量投与は冠動脈の拡大性病変を引き起こしている可能性が考えられた。
【結語】急性期川崎病の治療において血液循環の容量負荷と血液粘度負荷に考慮した治療の選択が重要であり、特に第9病日以降の免疫グロブリンの大量投与については冠動脈の拡大性病変を引き起こす可能性が検討されなければならない。
 
川崎病血管炎モデルにおけるHMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン)の
血管障害抑制効果に関する検討

京都府立医科大学大学院医学研究科発達循環病態学 小澤誠一郎 岩崎直哉 二星あゆみ M岡建城
【背景】最近、川崎病血管障害では血管内皮障害が残存し、粥状動脈硬化の大きな危険因子になることが報告され大きな関心を集めている。すでに我々も川崎病モデル動物を用いた実験的検討から同様の結果を報告して来た。そのため、川崎病冠動脈障害の長期予後を考える上では急性期から血管内皮機能障害の抑制や改善を考慮に入れた治療戦略が極めて重要であると考えられる。最近、その治療薬の一つとして、抗炎症効果や血管内皮安定化効果を有するHMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン)が注目されている。
【目的】我々が開発した川崎病類似の血管炎像を有する幼弱期家兎血管炎モデルを用いて、pleiotropic effectsを有するスタチンの抗炎症効果と血管内皮機能改善効果を検討した。
【方法】血管炎モデルは、日本白色系家兎(週齢5-7週)を用いて作成。血管炎モデル群(A):10ml/kgの馬血清を2回/2週投与。治療群として、プラバスタチン投与群(B):投与量2-25mg/kg、フルバスタチン投与群(C):5-50mg/kgを経口投与。血管炎惹起3、7、14日後に屠殺し各臓器を採取。冠動脈組織にHE、Elastica-Van-Gieson染色、免疫組織染色を行なった。
【結果】1)(A)群において、3日目より内膜炎症性変化、中膜を中心とする浮腫状血管壁肥厚、内弾性板の破壊などを伴う血管炎が出現。血管壁の肥厚は7日目をピークとして、以後消退した。2)(B)、(C)群において、内膜の炎症性変化は明らかに軽減し、血管壁肥厚や内弾性板破壊もごく軽度であった。3) (B)、(C)群において、マクロファージ、顆粒球の浸潤が著明に抑制された。
【考察】本血管炎モデルにおいて、スタチンは血管炎の発症早期(3日目)より明らかな抗炎症効果を認めた。今回の結果より、血管内皮障害の軽減に関与することが示唆され、長期的にも血管内皮機能の温存に有効である可能性が考えられた。
遺伝子発現プロファイルによるIVIG療法の効果判定
国立成育医療センター研究所免疫アレルギー研究部 阿部淳 斎藤博久
千葉大小児病態学 江畑亮太 寺井勝
国立成育医療センター第1専門診療部 野村伊知郎
千葉市立海浜病院 地引利昭
【目的】末梢血中の細胞の遺伝子発現プロファイルを用いて、ガンマグロブリン大量静注(IVIG)療法の効果判定に有効な分子の同定を試みた。
【方法】末梢血中の全血球細胞からトータルRNAを抽出し、グロビン除去カラムを用いて網状赤血球由来mRNAを排除した。cDNAを合成増幅した後、GeneChip〓および解析ソフトGeneSpring〓を用いて遺伝子発現プロファイルを解析した。リアルタイムRT-PCR、免疫染色フローサイトメトリーにより結果を確認した。
【結果】IVIG療法前後の川崎病患者4名と発熱対照患者4名の遺伝子発現プロファイルを比較した。1-way ANOVA解析により各群間で3倍以上に発現の変化した遺伝子51個を同定した。さらに、IVIG療法に不応だった川崎病患者2名と発熱対照患者4名について発熱の経過に合わせて2〜4時点での遺伝子発現プロファイルを解析し、この51個の遺伝子プローブを用いてSVMアルゴリズムによるクラス分類予測を行った。その結果、IVIG療法前および解熱後の川崎病患者2名と解熱前後の発熱対照患者2名を正しく分類することができた。また、追加IVIG療法後も発熱が持続した期間の川崎病患者およびTSSを合併した解熱前の発熱対照患者2名は、治療前の川崎病患者と同じクラスに分類された。
【考察】末梢血細胞の遺伝子発現プロファイルから同定された51個の遺伝子プローブは、急性期の川崎病の病態をよく反映する疾患マーカーと考えられた。また急性期のTSSと川崎病との遺伝子発現プロファイルの類似も示唆された。51個の遺伝子の中で、既成の特異抗体が入手可能であり、かつ血清中や細胞質内の蛋白量の定量が可能なものを組み合わせて測定することによりIVIG療法の効果判定ができるかどうか、前方視的な検討をすすめている。