川崎病血管炎をレビューする
国立成育医療センター研究所 免疫アレルギー研究部免疫療法研究室  阿部 淳
 川崎病は、1967年にわが国の川崎富作博士によって発見された乳幼児に好発する原因不明の熱性疾患です。全身性の血管炎を基礎病態とし、高安動脈炎や結節性多発動脈炎、ウェゲナー肉芽種症などと共に血管炎症候群に分類されます。心臓の冠動脈瘤を発生する頻度が高いことが重大な問題であり、免疫グロブリン大量靜注(IVIG)療法がほとんどの高リスク患者に施行されるようになった現在でも、全患者の約5%に冠動脈瘤などの心後遺症が発生しています。このような重症例、IVIG療法不応例に対する治療戦略を確立することがわれわれ小児科医にとっての急務であり、本大会の総合テーマの一つでもあります。
 さて、川崎病はこのように血管炎を主徴とする病態であるにもかかわらず、他の血管炎症候群の疾患とは異なって経口ステロイド剤や免疫抑制剤を第一選択薬として使用することが躊躇われてきました。ステロイドのもつ血液凝固促進作用や組織修復抑制作用が、川崎病の急性期病態に悪影響を及ぼすことが懸念されたからです。このような背景もあって、IVIG療法不応例に対してはステロイドパルス療法や好中球エラスターゼ阻害剤、最近では抗TNF-a製剤であるインフリキシマブなどが、主として抗炎症作用を期待して用いられています。いずれの治療法も経口ステロイド剤に比べて治療標的がはっきりしており、炎症抑制効果を把握しやすいという利点があると考えられます。なかでもインフリキシマブは、マウスのモノクローナル抗体から分子生物学的手法によって作られた生物学的製剤であり、分子を標的とした新しい治療法として関節リウマチやクローン病の治療に大きな成果を挙げ注目されています。
 本講演では、ステロイドパルス療法や好中球エラスターゼ阻害剤、抗サイトカイン製剤などの治療標的となっている分子群が、川崎病血管炎の病態においてどのような位置を占めるのかについて、先ずお話ししたいと思います。私どもの研究室で数年前から取り組んでいる川崎病急性期の遺伝子発現プロファイル解析の結果から、急性期患者の末梢血細胞ではIL-6やIL-1b以外にも、多くの炎症性ケモカインや増殖因子の遺伝子発現が亢進していることが分かりました。またIVIG療法の治療効果とよく相関して発現が変動する遺伝子群も明らかになってきました。IVIG療法不応例に対して用いられる治療薬の標的分子が、これらの川崎病血管炎の病態分子ネットワークの中に含まれるのかどうか、含まれるとしたらどのような役割を果たしているのかについて考えてみたいと思います。また後半では、全身性エリテマトーデスやシェーグレン症候群、皮膚筋炎などの全身性自己免疫疾患で用いられるステロイドパルス療法や、関節リウマチ、若年性特発性関節炎などの炎症性疾患で用いられる抗サイトカイン療法が、実際にどのような免疫機能分子や炎症メディエーターに影響を与えるのか、遺伝子発現プロファイル解析をした論文をもとに調べてみたいと思います。川崎病血管炎の病態分子ネットワークと対比して考えることで、これらの治療法の川崎病における分子的なrationaleに到達できればよいと願っています。