「シンポジウム-1の目指すところ」
大阪厚生年金病院 佐野哲也
 川崎病急性期に対するステロイド治療が再び脚光を浴びており、今回のシンポジウム‐1は誠に時期を得たテーマである。ステロイド治療の再評価により多くの研究成績が蓄積されているが、その効果はγ‐グロブリンに比べて遜色はないというのがほとんどで積極的にステロイドを使用したほうがよいというデータは未だ数少ない。一方、従来から禁忌の根拠とされてきた重大副作用を確実に予防できるかという疑問にも明確な答えがでている訳ではない。従って急性期川崎病に対してステロイド治療は禁忌というこれまでの定説を覆して、積極的にステロイドを急性期川崎病治療に使用した治療法の確立には至っていない現状である。
  今回選ばれたシンポジストは、いずれも急性期川崎病に対するステロイド治療の臨床経験をお持ちの先生ですが、抄録からお分かりの通りステロイド治療の考え方から投与時期、使用薬剤、投与方法等実際の使用法に至るまで4者4様です。初期治療として使用するか、追加治療の第一選択と位置づけるか、はステロイド治療というより川崎病全体の治療戦略を反映した討論になるでしょう。さらにステロイドの使用法一つをとっても十分な期間をかけて投与するか、パルス療法か、有害事象予防のチェックポイントなど議論は尽きないと予想されます。従ってこのシンポジウムでは統一したステロイドの使用法の確立というよりは、ステロイド治療への多様な考え方・使用法さらには副作用・有害事象の現状把握を第一目標にしたいと考えています。まず各シンポジストの臨床経験から急性期川崎病のステロイド治療の実際を肌身で感じていただくことが最も重要かもしれません。そしてステロイド治療について現時点で何が明らかで、何が明らかでないかをはっきりさせるのが次のステップと考えられます。この現状把握を通して急性期川崎病に対するステロイド治療が、安全にしかも効果的に行える確立された治療戦略になるきっかけになれば座長としてこれ以上の喜びはありません。
「川崎病の急性期治療にステロイドをいかに使用するか」
S1-1 初期治療としてのIVIG・PSL併用療法

群馬川崎病研究会 井上佳也 岡田恭典 篠原真 小林徹 小林富男 友政剛 竹内一夫 森川昭廣
 現在、IVIGとアスピリン内服が川崎病における標準的な治療である。しかし、治療不応例は15-20%に存在し、これらの症例は冠動脈後遺症を残す可能性が高いこと、治療不応を予測する方法は確立されていないこと等、川崎病の治療戦略には検討すべき課題が残されている。
  我々は20年以上前より初期からのIVIGとプレドニゾロン(PSL)の併用投与の効果について検討を重ね(J Pediatr 1999; 135: 465-469, J Pediatr 2003; 143: 363-367)、2000年9月〜2005年3月には、群馬大学関連12病院において川崎病患者に対して初期治療としてのIVIG・PSL併用療法の有用性を検討する前方視的検討を行った。症例を、無作為にIVIG単独投与群(G群)、IVIG・PSL併用群(G+S群)に割り付け、Primary endpointとして一過性拡大を含む冠動脈病変の有無、Secondary endpointとして治療不応例の有無、有熱期間、CRP陰性化までの期間、副反応を検討した。G群の治療プロトコールはIVIG 1g/kgを2日間投与とし、アスピリン30mg/kg/day(CRP陰性化5mg/kg/dayに減量)、ジピリダモール2mg/kg/dayを併用した。G+S群ではこれらの治療に加え、過去のプロトコールを参考にPSL 2mg/kg/dayを初期から併用するプロトコールとした。PSLは病初期は3回に分けて静注、全身状態の改善後経口投与に変更、CRP陰性化5日後より漸減を開始し、その後は10日で中止する方法とした。冠動脈の評価は心エコー法で行い、最大径5歳未満3mm以上、5歳以上4mm以上を冠動脈病変合併と定義した。
  検討期間中178例がエントリーし、G群に88例、G+S群に90例を割り付けた。二群間の患者背景に差を認めなかったが、一過性拡大を含めた冠動脈病変の合併はG群10例(11.4%)、G+S群2例(2.2%)と、G+S群で冠動脈病変の合併が有意に低かった(P=0.017)。1ヶ月時の冠動脈病変の合併率はG群3例(3.4%)、G+S群0例(0%)であった。初期治療不応例の割合、解熱までの期間、CRP陰性化までの期間はG群に比べG+S群が有意に低かった。副反応としてG群に1例ショックが、G+S群に尿路感染症が1例、ロタウイルス感染が1例、一過性の歩行障害を1例認めた。以上から初期治療としてのIVIG・PSL併用療法は冠動脈合併症の抑制、臨床症状の改善、炎症の早期沈静化に有用であることが示された(J Pediatr, 印刷中)。
  現時点では検討症例数には限りがあり、川崎病患者へのステロイド併用投与が重篤な副作用をもたらす可能性があることは否めない。また、全患者の80%以上はIVIG単独療法が有効でステロイドの併用投与の必要性がない。したがって適切なステロイドの投与法(量、期間)やPSL併用投与が有効な患者の選択について検討の余地がある。最近我々は川崎病患者の後方視的調査から、Na、治療開始病日、好中球%、AST、月齢、血小板数、CRPがIVIG抵抗例に関連していることを見いだし、初期治療開始前にIVIGへの反応性を予測する11点満点のリスクスコアを作成した(Circulation 2006; 113: 2606-2612)。今後は高リスク患者により強力な初期治療を行っていくことが川崎病治療の一つの方向性であると考えている。
 
S1-2 IVGG不応リスク症例に対するメチルプレドニゾロン・パルス療法と
IVGGを併用した強化初期治療

大阪川崎病治療研究会 佐野哲也
【背景】γ-グロブリン静注療法(IVGG)は急性期川崎病の標準治療として確立しているが、我々の後方視研究では約20%の症例がIVGGに反応せず全身性炎症が遷延する。そしてIVGG不応症例における冠動脈病変(CAL)は著しく高率(約70%)で、かつ重症である。IVGG不応例は全身性炎症が重症で、初期治療のIVGGの抗炎症作用だけでは不十分なため、血管炎の進展を抑制できない可能性が示唆される。そこで初期治療前にIVGG不応例を予測し、このハイリスク群に対してステロイドを含む従来のIVGGより強力な初期治療を行うという戦略が考えられる。
【目的】初期治療前にIVGG不応と予測される例を判別し、IVGG不応ハイリスク群を対象にメチルプレドニゾロン(mPSL)パルス療法とIVGGを併用した強化初期治療の有効性を多施設共同臨床試験で前方視的に明らかにすること。
【対象】2002年4月から2005年3月の3年間に研究参加施設で診療された新規川崎病で、治療開始前に冠動脈病変を認めず、IVGG不応と予測された62例(mPSL+IVGG群)。Historical control(IVGG単独群)は、2002年4月までにIVGG治療のみを受け、治療開始前に冠動脈病変を認めず、IVGG不応の条件を満たしていた川崎病患児32例。
【方法】(1)IVGG不応予測:本研究会のIVGG(1g/kg×2日)治療に関する後方視研究で得られた、治療開始前の血液検査でCRP≧7.0mg/dl、Total Bilirubin≧0.9mg/dl、AST≧200IU/Lのうち2つ以上を満たすという判別法を用いた(感度77%、特異度86%)。(2)CALの評価:正常小児85例から得られた正常冠動脈径の回帰式を用いてSD値として表し、3SD以上を冠動脈拡張、5SD以上を冠動脈瘤とした。(3)治療プロトコール:ヘパリンによる抗凝固療法下でmPSL(30mg/kg)を3時間で点滴後、IVGG治療を行った。
【結果】(1)患者背景(年齢・性別・治療開始前CAL)に有意差なし。(2)有害事象:低体温9、徐脈4、高血糖3、高血圧1等ですべて一過性であった。(3)初期治療の有効率(治療終了後24時間以内の解熱)は、mPSL+IVGG群(66%)がIVGG単独群(44%)より有意に(p=0.048)高かった。(4)CAL発生率は、mPSL+IVGG群(24.2%)がIVGG単独群(46.9%)より有意に(p=0.025)低値で、入院中最大冠動脈径も有意に低値であった(2.3SD vs. 4.3SD、p=0.008)。さらに冠動脈瘤の発生率も有意に減少した(4% vs. 25%、p=0.002)。(5)mPSL+IVGG群の中で初期治療に不応7、再燃14で50%にCALを認め、有効41例のCAL発生率20%より有意に高率であった(p=0.049)。(6)再燃・不応21例中19例にIVGG、ステロイドその他の薬剤の追加治療が行われたが、各々の薬剤の追加治療における有意性は見出せなかった。
【考察】(1)研究目標のIVGG不応予測例における早期の消炎(早期解熱)および血管炎の軽症化(CALの頻度・重症度の軽減)が達成され、有害事象は少なかったことから強化初期治療の有効性が証明された。(2)本治療プロトコールでも34%に不応・再燃があり、CAL発生率は高く、追加治療が有効とは言えなかったことから、本治療プロトコールよりさらに強力な初期治療が望まれる。
【結論】mPSLとIVGG併用強化初期治療は、IVGG不応川崎病対する有効な治療戦略の一つである。
S1-3 IVIG不応例に対する早期mPSLパルス療法
S1-3-1 免疫グロブリン不応の川崎病に対するステロイドパルス療法

東京都立清瀬小児病院循環器科 三浦大 河野一樹 大木寛生 佐藤正昭
 われわれは、免疫グロブリン療法(IVIG)不応の川崎病に積極的にステロイドパルス療法(IVMP)を使用し、有用性だけでなく安全性についても詳細に検討してきた。
【初回IVIG不応例に対するIVMPとIVIG追加の無作為化比較試験】
 初回IVIG (2 g/kg/24時間)不応の川崎病 22例を無作為に2群に分け、IVMP (メチルプレドニゾロン30 mg/kg/2時間、1日1回、3日間、ヘパリン15〜20 u/kg/hr併用)またはIVIG追加(2 g/kg/24時間)により加療し両群を比較した。IVMP群では、IVIG追加群に比し、速やかに解熱し、最高体温は投与後2日目では有意に低値であったが(中央値36.9 vs. 37.8℃、P=0.02)、一部に発熱の再燃が生じ、3日目以降は有意差がなかった。両群の発熱例(6/11 vs. 6/11)、治療必要例(IVIG追加3例 vs. IVMP 2例)、冠動脈病変例(2/11vs. 3/11)の割合は同様であった。
  IVMP群の血液検査では、白血球数(投与後2日目の中央値20.4 vs. 14.1×103/μl、P=0.02)、好中球数(15.7 vs. 10.5×103/μl、P=0.01)、血糖値(128 vs. 93 mg/dl、P=0.002)が有意に高値で、高血糖を呈した例も高率であった(6/11 vs. 0/11、P=0.01)。その他のIVMPの副作用では、洞性徐脈(9/11 vs. 2/11、P=0.01)が最も特徴的であった。 IVMP群では、有意に最低体温が低値を示し(平均値35.4 vs. 36.1 ℃、P = 0.0002)、有意差はないものの高血圧が多い傾向を認めた(10/11 vs. 6/11、P=0.15)。これらの変化は、いずれも一過性で自然に回復した。重症不整脈、塞栓症、消化管出血、痙攣、2次感染といった重篤な副作用は、両群とも認めなかった。
 サイトカインに関しては、IVMP群(7例)において、IVIG追加群(8例)に比し、投与後4日目ではTNF-α(前値との比の平均値0.50 vs. 1.01、P=0.02)とMCP-1(0.53 vs. 0.93、P=0.045)は有意に抑制されたが、7日目では有意差がなかった。 IL-6とVEGFは、有意差はなかったが、投与後4日目では低値、7日目では高値の傾向を示した。したがって、これらのサイトカインに対するIVMPの抑制作用も、早期に出現するが再燃を伴うことが示唆された。
 本研究によって、IVMPには、速やかに炎症を抑制し、CALの防止効果も期待できるという長所がある一方、終了後に再燃を伴い、重篤ではないものの副作用が目立つという短所もあることが判明した。したがって、現状では、米国のガイドラインに沿い、初回IVIG不応例にはIVIG追加を行い、さらに不応の際にIVMPを検討することが妥当と考えた。
【IVMP後プレドニゾロン(PSL)経口投与】
 現在、当院では、IVIG追加不応例にIVMPを行った後、発熱の再燃を防止するため PSL の後療法(1 mg/kg/日を7日間経口投与、以後7日間かけて漸減中止)を行なっている。また、ステロイドによる副作用防止のため、ヘパリン、抗生剤、抗潰瘍剤を併用している。
  最近3年間、初回IVIGを行なった川崎病259例うち、 51例(19.7%)に同量のIVIGを追加し、さらに不応であった15例(29.4%)をIVMP後PSL投与で加療した。IVMP後の発熱の再燃は2/15例と少なかった(後療法のない場合の6/11例に対しP = 0.04)。 PSL漸減中に再燃した1例はPSLの一時的増量で、PSL中止後に再燃した1例は3回目のIVIGで対応した。冠動脈病変は、全259例中の3例(1.2%)のみに発生した。初回IVIG反応1例(巨大瘤)とIVIG追加反応1例(瘤)はいずれも10病日の診断例で、IVMP 後PSL投与の1例(拡大)はPSL中止後の発熱例であった。早期診断さえできれば、IVIG追加不応例に対するIVMP後PSL投与によって、冠動脈病変を皆無にすることも不可能ではない。
 今後、わが国でも、大規模臨床研究を実施し、IVMPを含め川崎病に対するステロイド療法の妥当な使用法を明らかにする必要がある。
S1-3 IVIG不応例に対する早期mPSLパルス療法
S1-3-2 免疫グロブリン不応の川崎病におけるステロイドパルス療法

関西医科大学附属枚方病院小児科 寺口正之 吉村健 野田幸弘 金子一成
関西医科大学附属男山病院小児科 荻野廣太郎
関西医科大学附属滝井病院小児科 谷内昇一郎
中野こども病院小児科 木野稔
河内総合病院小児科 岡崎仁志
【背景】免疫グロブリン静注療法(IVIG)に不応の川崎病(KD)では、冠動脈病変(CAL)を残す危険性が高いことがよく知られている。IVIG不応例に対する治療としてステロイドパルス療法(SPT)が、川崎病急性期の治療ガイドライン(日本小児循環器学会制定、2003年2月21日)にも1つの方法として示されている。しかし従来のSPTに関する報告では、2回のIVIG不応例に施行されCALの合併率はIVIGの3回投与と差がない。
 今回我々は、IVIG不応のKDで2回目の治療としてSPTがIVIG追加治療と比較し有効か、前方視的に検討した。
【方法】KDと診断され37.5℃以下に解熱していない例にはIVIGを2g/kgで単回投与した。アスピリン(30mg/kg/日)またはフロベン(3〜5mg/kg/日)を併用した。IVIG不応の定義は、IVIG投与終了24〜36時間後の時点で、(1)体温が38℃以上、もしくは(2)体温が37.5℃以上で38℃未満、かつCRP値が治療前の1/2以下になっていない例とした。以上の定義を満たし、両親の同意の得られた場合にSPTを施行した。SPTは、メチルプレドニゾロン30mg/kg/日(最高1000mg)を2時間で点滴静注し3日連続で行った。ステロイド投与開始の2時間前からSPT終了翌日までヘパリン10単位/kg/時間を継続した。SPT終了後はプレドニゾロンを1mg/kg/日(分2)を3日間経口投与し、1週間で減量中止した。
 2005年4月から2006年6月までに経験したKD例で初回治療がIVIGの2g/kgの単回投与例は88例で、年齢は4か月から10歳、男女比は1.4であった。88例中67例(76%)は、IVIG開始後48時間以内に解熱し全例で冠動脈障害を認めなかった。一方、初回IVIG不応例は21例(24%)で、19例が今回の不応の基準を満たした。 7例のSPT群(Group A;9か月〜4歳10か月;男6、女1)、12例の追加IVIG群(Group B;8か月〜5歳7か月;男7、女5)の2群間でCALの頻度、入院時の血液検査データ、副反応につき比較検討した。
【結果】CALの頻度はGroup A で2/7 (28.5%;一過性拡大1、巨大瘤1)、Group B では5/12 (41.7%;拡大1、一過性拡大4)と差を認めなかった。また、2群間で、年齢、入院時の血液データ(白血球数、CRP値、ヘマトクリット、血清アルブミン、血清ナトリウム、血小板数)に差はなかった。SPTの副反応として、10か月の男児に血便がみられたがH2ブロッカー投与で軽快した。
【結論】症例数の少ない検討であるが、KDのIVIG不応例に対する追加治療としてSPTは、IVIGと同等であり有効である。