41. 重篤な心筋炎を合併した川崎病の1例
A Patient of Kawasaki Disease with Severe Myocarditis

大久保裕子 小高 淳 森本康子 平久保由香 保科 優 市橋 光 白石裕比湖 桃井真里子 (自治医科大学とちぎ子ども医療センター小児科)
Yuko Okubo Atsushi Kodaka Yasuko Morimoto Yuka Hirakubo Masaru Hoshina Hikaru Ichihashi Hirohiko Shiraishi Mariko Momoi (Jichi Children's Medical Center Tochigi)
【背景】川崎病に合併する心筋炎は多くは軽症であり無症状で経過する。今回我々は重篤な心筋炎を合併した川崎病症例に対し、γグロブリンの再投与とステロイドの追加治療を行い軽快したので報告する。
【症例】4歳9か月の女児。第5病日に川崎病と診断され、前医でアスピリンの内服、γグロブリン2g/kgの点滴静注を行ったが軽快せず、第7病日にSpO2低下・乏尿となり当院へ搬送となった。転院時の心エコーで収縮率は20.6%と著明に低下し、胸部レントゲン上CTR62.3%と心拡大を認め、血液検査でHANP755、BNP7360と異常高値を示した。また収縮期血圧が60台前半に低下し、0.3ml/kg/時の乏尿の状況から心筋炎とこれに伴う心原性ショックと診断した。肺水腫とDICも併発し、ICUに収容し気管内挿管し、人工呼吸管理とした。心不全に対し、強心薬の点滴静注、利尿薬の静注を行った。川崎病に対してはγグロブリン2g/kgの再投与とステロイド(ソルメドロール1.25mg/kg)の追加治療を行い、第8病日に解熱した。解熱に伴いCRPは低下し第13病日の心エコーでは収縮能は改善した。第14病日に人工呼吸管理を中止した。経過中、冠動脈の拡張病変はなく不整脈も認めず、第27病日に退院した。
【考察】川崎病に合併する心筋炎は軽症例が多いが心不全を来たす場合もあり、経過中の心不全徴候出現に注意を要する。本例では、炎症の消退に伴い心機能が急速に改善しており、γグロブリンの再投与とステロイドの追加治療が有効であった。
42. 不全型川崎病に伴う房室弁逆流により、著明な心不全症状を呈したfenestrated-total cavopulmonary connection(f-TCPC)術後の1男児例
A case report:the 5 years-old boy after f-TCPC operation had severe heart failure due to common atrioventricular valve regurgitation with atypical Kawasaki disease

尾崎智康 山本貴士 奥村謙一 森 保彦 片山博視 玉井 浩 (大阪医科大学小児科)
Noriyasu Ozaki Takashi Yamamoto Kenichi Okumura Yasuhiko Mori Hiroshi Katayama Hiroshi Tamai (Department of pediatrics, Osaka Medical College)
【はじめに】川崎病急性期において房室弁逆流の増悪が認められることは良く知られているが、房室弁逆流の増悪のみで高度の心不全症状を呈することは少ない。しかし、TCPCにとって房室弁逆流は心拍出量低下を引き起こし致命的となる。今回我々は不全型川崎病に罹患し、房室弁逆流が増悪した結果、高度の心不全症状を呈したf-TCPC術後の1男児例を経験したので報告する。
【症例】5歳、男児
【主訴】発熱、発疹
【既往歴】左心低形成症候群(最終到達術式;f-TCPC手術) 利尿剤・ボセンタン・ACE阻害剤・ワーファリン内服中。
【現病歴】38度台の発熱、発疹が出現したため、当院を受診し抗生物質を処方され帰宅した。その後も症状が遷延し第5病日、当院再診。血液検査にて炎症反応の増多を認め、入院となった。
【入院後経過】抗生物質投与を開始したが、解熱せず、第6病日に硬性浮腫が出現した。心エコーで、共通房室弁逆流(CAVVR)の急速な増悪を認め、病日とともにアルブミンやコリンエステラーゼが低下した。このため主要症状3/6であったが不全型川崎病と診断し、第8病日よりIVIG、ウリナスタチンの投与を開始した。CAVVRに伴う心不全症状が悪化したため、厳重な水分管理・ミルリノン投与を同時に開始した。治療開始後速やかに解熱し、第14病日に手指の落屑を認めた。また、心不全症状も徐々に改善しミルリノンを中止できた。入院中の心エコーでは、冠動脈病変は認めず、CAVVRも罹患前まで回復したため第17病日軽快退院となった。
【考案】本例は急性期に川崎病の症状が揃わず診断に難渋した。また、術後より認めていたCAVVRと慢性心不全状態が、川崎病罹患に伴いCAVVRが増悪したことにより高度の心不全症状を惹起したと考えられた。本例のような場合、速やかな診断、抗心不全治療まで含めた治療戦略が重要であると考えられた。
43. 肺癌を疑われ精査で一部石灰化を伴う冠動脈瘤病変と判明した川崎病既往の54歳成人例
Calcified coronary artery aneurysm after suspected Kawasaki Disease in a 54 year old man misdiagnosed as having a lung cancer.

直井和之 池原 聡 監物 靖 嶋田博光 高月晋一 中山智孝 松裏裕行 佐地 勉 (東邦大学医療センター大森病院小児科)  
我妻堅司 (東邦大学医療センター大森病院循環器センター)
高橋 宏 (駿河台日本大学病院循環器科)
Kazuyuki Naoi Satoshi Ikehara Yasushi Kenmotsu Hiromitsu Shimada Shinichi Takatsuki Tomotaka Nakayama Hiroyuki Matsuura Tsutomu Saji (Toho University Omori Medical Center Pediatrics)
Kenji Wagatsuma (Toho University Medical Center Omori Hospital department of circulatory system)
Hiroshi Takahashi (Surugadai Nihon University Hospital department of circulatory system)
症例は54歳男性で、主訴は胸部X線上の石灰化陰影である。平成17年10月の健診で胸部X線にて、左肺門部に腫瘤状の石灰化病変が認められたため、肺癌を疑われ精査目的で前医を受診した。5才頃に麻疹に似た発疹、頚部リンパ節腫大、口唇の発赤を伴う発熱を認め、自宅安静にて自然に軽快し、経過中に手指の落屑も認められていた。主要症状5/6を示し川崎病の既往があったと考えられた。その後中学時代では陸上部でマラソンを行なうぐらいの通常の運動を行なっていたが、胸痛等の症状は全く認めず通常の生活をしていた。冠動脈造影CTでは前下行枝近位部に34×24mmの巨大冠動脈瘤が認められた。選択的冠動脈造影では瘤内の血栓化と遠位端の狭窄が認められた。そのため冠動脈バイパス手術を勧められ、セカンドオピニオンとして当院紹介受診となった。安静時ECGやタリウム運動負荷シンチで虚血を認めず、冠動脈造影の結果からは前下行枝の瘤と軽度の狭窄は認められるが冠動脈の血流は保たれ、右冠状動脈は完全閉塞であるが血流良好な側副血行路が認められた。臨床上、川崎病様症状の発症から約50年間何事もなく経過しており、抗血小板薬による内科的加療により経過が可能と考えられ、本人の意向もあり、インターベンションや冠動脈バイパス術は施行せず経過観察中である。昭和31〜32年に罹患し、虚血症状なく無事に生活している成人例を報告する。
44. 川崎病の既往歴をもつ若年女性における血管攣縮性狭心症の一例
Vasospastic angina in a young female with a history of Kawasaki disease

津田悦子 (国立循環器病センター小児科) 
安田雄紀 (大阪府立呼吸器アレルギー病院)
Etsuko Tsuda (National Cardiovascular Center)
Takenori Yasuda (Oosaka prefectural respiratory and allergic hospital)
31歳女性。1歳8ヶ月時に川崎病に罹患した。8日間発熱がみられ、解熱後川崎病と診断されたため、急性期の治療はなされていない。4歳時に当院を受診し、選択的冠動脈造影(CAG)が施行された。右冠動脈はやや低形成であったが、異常なしと診断された。20歳まで、2年に1回定期検診を受けていたが、異常を指摘されなかった。31歳時、自転車に乗った時や風呂上がりに、左肩に放散する痛みを感じることがあったという。その後、痛みの回数が増加した。通勤途中で胸痛があり、翌日近医に入院した。身長155cm、体重43kg、血圧104/58 mmHgであった。入院時心電図で、前胸部誘導で巨大陰性T波がみられた。トロポニンT、CPKの上昇はみられなかった。陰性T波は徐々に消失した。第7病日CAGが施行され、左前下行枝セグメント6の50%狭窄と診断された。エルゴメーター負荷検査で、負荷直後から、V2、V3の陰性T波が出現し、左肩の違和感が出現した。アイトロール、シグマート内服のうえ、同検査が施行された。心電図変化は同様であったが、無症状であった。運動負荷心筋イメージングでは灌流欠損はみられなかった。経過から、血管攣縮性狭心症が疑われた。その後、当院を受診した。マルチスライスCTアンギオグラフィーでは、左前下行枝冠動脈狭窄部位に内膜肥厚がみられた。冠動脈狭窄をきたしうる動脈硬化因子に乏しく、幼児期に罹患した川崎病による血管炎との関連が疑われた。
45. 国外にて発症し、川崎病と診断・治療され、巨大冠動脈瘤を形成した1例
A patient with Kawasaki disease treated outside of Japan and left with giant coronary aneurysms

石井治佳 須田憲治 西野 裕 籠手田雄介 岸本慎太郎 伊藤晋一 松石豊次郎 (久留米大学小児科) 
家村素史 (久留米大学循環器病センター)
Haruka Ishii Kenji Suda Hiroshi Nishino Yusuke Koteda Shintaro Kishimoto Shinichi Ito Toyojiro Matsuishi (Department of Pediatrics and Child Health, Kurume University School of Medicine) 
Motofumi Iemura (Cardiovascular Research Institute, Kurume University)
家族連れでの海外旅行や出張は年々増加しているが、海外の医師が川崎病の診断・治療に慣れていない地域も存在する。海外渡航中に川崎病を発症・診断・治療され、巨大冠動脈瘤を形成した7か月男児を経験した。
【症例】7か月男児。父親の出張先チュニジア向け渡航中、経由地であるパリで診断・治療された。渡航1日前に発熱し、日本国内の医療機関で抗生剤を処方された。2病日に一旦解熱しパリへ出国。3病日に再度発熱を来たしパリの病院を受診し緊急入院した。4病日に眼球充血・口唇紅潮・手足硬性浮腫・発疹認めた。6病日に心エコー目的で他院に紹介。川崎病と診断され、アスピリン内服とγグロブリン(IVGG, 1g/kg)を2日間投与された。8病日に一旦解熱し退院。11病日再発熱を来たし再受診し心エコーで右冠動脈瘤(3.5mm)を指摘され再入院。IVGG不応例と判断されステロイド内服開始。現地でのプロトコールはプレドニン(PSL, 2mg/kg/day)を3週間、以後は6週間かけて漸減する方針。13病日に解熱、発疹が出現したが皮膚科専門医から「蕁麻疹」の診断を受け退院した。20病日に日本に帰国、23病日に再発熱あり当科受診。眼球結膜充血・口唇紅潮・手足硬性浮腫・発疹・心エコー上RCA6.9mm・LCA5.0mmと冠動脈瘤の進行を認め緊急入院となった。同日からIVGG(2g/kg/day)投与。一旦解熱後再発熱したため、27病日より血漿交換を3日間施行した。30病日には解熱、PSLも中止し、その後退院した。以後症状の増悪を認めず、現在経過観察中である。
【結語】川崎病の初回治療としてIVGG・アスピリン投与は世界的標準治療と考えられる。しかしながらIVGG不応例の診断・治療法は確立しておらず、その確立と世界レベルでの普及が必要と考えた。
46. 長期未治療期間があった川崎病後重症冠動脈障害の2例
Two cases of serious coronary complication after Kawasaki disease with long duration of untreated period

中村隆広 金丸 浩 市川理恵 宮下理夫 唐澤賢祐 鮎沢 衛 住友直方 岡田知雄 原田研介 麦島秀雄 (日本大学小児科)
Takahiro Nakamura Hiroshi Kanamaru Rie Ichikawa Michio Miyashita Kensuke Karasawa Mamoru Ayusawa Naokata Sumitomo Tomoo Okada Kensuke Harada Hideo Mugishima (Nihon University School of Medicine)
川崎病心合併症を認め、経過中にドロップアウトをする症例は少なくない。急性期治療後に、無症状であったことを理由に15 年以上の未治療期間があった、川崎病後重症冠動脈障害の2例を経験したので報告する。
【症例1】38歳の女性。1歳時に川崎病を指摘された。経過中無症状であったが、13歳時の学校健診で、胸部エックス線撮影で石灰化を指摘され、川崎病の既往があり当科を受診した。心臓エコー検査で左冠動脈主幹部に冠動脈瘤を認めた。同年、選択的冠動脈造影を施行し、左冠動脈主幹部に石灰化を伴う巨大冠動脈瘤を認めた。22歳までアスピリンを内服していたが、その後通院治療が途絶えた。無症状で経過をしていたが16年ぶりに外来受診をした。マルチスライスCTを施行し、左冠動脈主幹部の石灰化巨大冠動脈瘤を認めたが、負荷心筋SPECTに異常を認めなかった。アスピリンの内服を再開した。
【症例2】38歳の女性。7歳時に川崎病を指摘された。経過中無症状であったが、心臓エコー検査で左冠動脈瘤を認め、選択的冠動脈造影でも左巨大冠動脈瘤を認め、アスピリンの内服を継続した。外来フォローをされていたが、19歳ごろに同院への通院が途絶えた。患者の子供が川崎病の診断で当科受診をしていたこともあり、34歳時に当科を初診。マルチスライスCTを施行し、左冠動脈に巨大石灰化冠動脈瘤と狭窄を、右冠動脈の完全閉塞を認めた。負荷心筋SPECTでは左前下行枝および右冠動脈領域の虚血を認め、アスピリンとワルファリンの内服を再開した。
【考察】川崎病重症冠動脈障害の多くは、無症状で経過をする。しかし、突然死のリスクは高く、抗血小板薬をはじめ薬物療法は必須である。一方、遠隔期ではドロップアウト症例も少なくない。本症例のように、特に女性では結婚、妊娠を契機に外来受診が途絶えることがあり、遠隔期にもリスクの認識を含めた患者再教育の必要性がある。