47. 川崎病による冠動脈拡大基準に関する検討1 -従来の基準の再検討-
Diagnostic criteria of coronary artery dilatation in Kawasaki disease -Reconsideration of the reports-

布施茂登 (NTT東日本札幌病院)  
Shigeto Fuse (NTT East Japan Hospital)
【目的と方法】川崎病による冠動脈拡大(DL)の診断基準は、1983年に神谷らにより、その病変部前後の冠動脈径の1.5倍未満の拡大を‘拡大(Dil)’または‘瘤・小(ANs)’とし、1.5倍以上4倍未満の拡大を‘瘤・中(ANm)’、4倍以上の拡大を‘瘤・大(ANl)’と定義された。とくに心エコー上、周辺冠動脈の1.5倍以上の拡大はDLとしてよいと、また5歳以下であれば3mm以上の径の場合にDLと診断してよいとされた。 この基準以外にも冠動脈拡大の診断基準や冠動脈径の正常域に関する報告がなされており、これらの論文の再検討を行いたい。
【結果】1.2004年の川崎病急性期治療のガイドラインが参考資料としている1995年のDurongpisikulらの提唱する基準は、1986年のArjunanらの論文をその根拠としているが、この中では小児の冠動脈径の正常域は示されていない。 2.1989年のOberhofferらの論文は、正常小児の冠動脈径の年齢別にプロットし95%が含まれる範囲を単に楕円形で示している。 3.1993年の小児の川崎病の診断と治療のAHA Statementは、上記のArjunanらとOberhofferらの論文を引用し、冠動脈径の正常値として示している。 4.1998年のDe Zorzi らの論文は、小児の体表面積と平均冠動脈径、標準偏差の関係式を示したが、方法論の正当性が検討されていない。 5.2002年のKurotobiらの論文は71名の小児を対象に、体表面積と冠動脈径との関係を直線回帰分析にて示した。 6.2004年の小児の川崎病の診断、治療と長期管理のAHA Statementは、冠動脈径のZスコアを参考に冠動脈の拡大の評価をするように提唱したが、冠動脈の正常域の作成方法、妥当性の言及はない。
【考察】小児の冠動脈径の正常域に基づいた冠動脈拡大の基準は、いまだ確立されていない。
48. 川崎病類似動脈炎モデルにおける遠隔期血管病変の病理組織学的検討
Sequela of arteritis in animal model of Kawasaki disease

大原関利章 横内 幸 伊原文恵 若山 恵 山田仁美 直江史郎 高橋 啓 (東邦大学医療センター大橋病院病院病理部)
Toshiaki Oharaseki Yuki Yokouchi Fumie Ihara Megumi Wakayama Hitomi Yamada Shiro Naoe Kei Takahashi (Toho University Medical Center Ohashi Hospital)
【目的】我々は、川崎病剖検例の病理組織学的検索の一方で川崎病罹患児糞便から分離したカンジダを用いて川崎病類似動脈炎作製実験を続けている。従来は、動脈炎急性期の病態解析のため、起炎物質接種後4週でマウスを屠殺してきたが、遠隔期についての検討は不十分であった。今回は、本モデルにおける動脈炎の遠隔期の変化について組織学的検索を行った。
【方法】川崎病罹患児糞便から分離したカンジダの培養上清中に溶出する菌体由来多糖 (CAWS)を起炎物質とし、マウス(C57BL/6N、4週齢、雄)の腹腔内に連続5日間接種した。接種終了後30週まで通常飼料、室温の環境下で長期飼育を行った。剖検後、冠状動脈分岐部を含む心基部大動脈のステップ標本を作製して組織学的検索を行った。
【結果】血管炎発生率は、78.6%(11/14)であった。組織学的には、大動脈起始部から冠状動脈に亘って線維化傾向を示す血管炎の瘢痕が観察された。血管壁の既存構築は広範に破壊されており、冠状動脈瘤も散見された。瘤内には、血栓性閉塞や血栓再疎通が認められた。また、冠状動脈周囲に側副血行路と思われる血管増生が観察された。血管炎の見られたマウスの81.8% (9/11)に新旧の心筋虚血性病変が認められた。血管炎の見られなかった全てのマウスは実験終了時点(30週)まで生存したが、血管炎の見られたマウスでは13週から死亡する個体が見られ、63.6% (7/11)が実験終了前に死亡した。
【要約】長期飼育によって血管炎の瘢痕像を観察することができた。また、従来の飼育期間では稀な冠状動脈内血栓や心筋梗塞を高頻度に観察することが可能であった。本実験系は、川崎病動脈炎の急性期だけでなく遠隔期モデルとしても有用であると考えられた。
49. 川崎病類似動脈炎モデルにおける血管炎後遺症と粥状硬化症の病理組織学的検討
Correlation between post arteritis lesion and atherosclerosis in animal model of Kawasaki disease

大原関利章 横内 幸 伊原文恵 若山 恵 山田仁美 直江史郎 高橋 啓 (東邦大学医療センター大橋病院病院病理部)
Toshiaki Oharaseki Yuki Yokouchi Fumie Ihara Megumi Wakayama Hitomi Yamada Shiro Naoe Kei Takahashi (Toho University Medical Center Ohashi Hospital)
【目的】川崎病では、冠状動脈炎の既往が動脈硬化(粥状硬化症)の危険因子となる可能性が示唆されているが、この問題に対する組織学的なエビデンスは未だない。今回は、粥状硬化自然発症マウスを用いて川崎病類似動脈炎誘発実験を行い、動脈炎と粥状硬化症との関連について病理組織学的に検討した。
【方法】常法に従い起炎物質 (CAWS)をマウス腹腔内に連続5日間接種した。C57BL/6N野生型マウスとApoE欠損マウス (いずれも4週齢、雄)を使用し、以下の実験群を設定した。A群:野生型・CAWS接種、B群:野生型・PBS接種、C群:ApoE欠損・CAWS接種、D群:ApoE欠損・PBS接種。接種終了後30週まで長期飼育を行った。剖検後、冠状動脈分岐部を含む心基部大動脈のステップ標本を作製して組織学的検索を施行した。
【結果】各群の血管炎発生率は、A群:78.6%(11/14)、B群:0%(0/10)、C群:100%(10/10)、D群:0%(0/6)であった。組織学的には、いずれも既存構築の破壊を伴う血管炎の瘢痕が観察された。粥状硬化の発生率は、A群:0%、B群:0%、C群:70%、D群:100%であった。D群では、大動脈や冠状動脈分岐部に泡沫細胞の集簇やコレステリン結晶の沈着、すなわち粥腫の形成が広範に認められた。これに対してC群では、粥腫はより小型で血管壁の既存構築が残存している部分に分布する傾向があった。
【考察】血管炎の既往は粥状硬化症の危険因子として考えられてきたが、本モデルのように内膜だけでなく血管壁の全層が広範に傷害されるような血管炎の瘢痕部では、脂質の沈着はむしろ起こりにくい可能性があると考えられた。
50. 川崎病冠動脈障害例の加齢に伴う動脈硬化促進性
Age-related acceleration of the premature atherosclerosis in patients with Kawasaki disease and coronary artery lesions

能登信孝 宮下理夫 唐沢賢祐 鮎沢 衛 住友直方 岡田知雄 原田研介 麦島秀雄 (日本大学医学部小児科)
Nobutaka Noto Yoshio Miyashita Kensuke Karasawa Mamoru Ayusawa Naokata Sumitomo Tomoo OkadaT Kensuke Harada Hideo Mugishima (Nihon University School of Medicine Pediatrics and Child Health)
【目的】川崎病冠動脈障害による動脈硬化促進性を、広い年齢構成によるcase-control studyから検討する。
【方法】対象は外来経過観察中の冠動脈瘤を有する川崎病冠動脈障害57例中、冠危険因子を認めない35例(KD群:9〜42歳)と、年齢性をマッチさせた健常対照35例(C群)である。全例に前腕負荷FMD(flow-mediated vasodilatation)、総頚動脈内膜中膜複合体厚(IMT)、elastic property(Ep)を計測し、両群で比較した。さらに各検査項目のKD例C例ペアの差(ΔFMD、ΔIMT、ΔEp)と年齢との関係を検討した。
【結果】FMDはC群に比べKD群で有意(p=0.04)に低値をとった。また、IMT(p=0.07)およびEp(p=0.17)はC群に比べKD群で高値をとる傾向にあった。ΔFMD、ΔIMT、ΔEpは年齢と有意な正の相関関係が得られ、年変化はKD群、C群それぞれFMD(-0.15%/y vs -0.06%/y)、IMT(0.008mm/y vs 0.004mm/y)、Ep(2.83KPa/y vs 2.03KPa/y)であった。またΔFMD2%以上を異常とすると、20歳以上で有意(chi-square <0.01)に異常値が検出された。
【考察】 冠危険因子によらない血管炎後によると推測される内皮機能障害は20歳以上KD例に主として認められ、健常例の2.5倍の速さで進行した。さらにIMTとEpの推移から、冠動脈障害合併KD例は加齢に伴い確実に動脈硬化促進性に作用すると考えられた。
51. 川崎病既往患者の血流依存性血管拡張反応(FMD)に関する検討―FMD自動計測装置ユネクスEF18Gを用いてー
Flow-Mediated Dilatation of the Brachial Artery in Patients with a History of Kawasaki Disease using UNEX EF18G.

宗村純平 吉澤弘行 津田悦子 越後茂之 (国立循環器病センター)
Junpei Soumura Hiroyuki Yoshizawa Etuko Tuda Sigeyuki Echigo (National Cardiovascular Center)
【目的】近年,動脈硬化の初期変化として血管内皮機能障害が注目され、断層エコー図を用いて、上腕動脈の血流依存性血管拡張反応(Flow-mediated dilatation: 以下FMD)を測定することにより、血管内皮機能の評価が行われるようになってきている。しかし、FMD測定には熟練したテクニックが必要である。 川崎病既往患者(青年期〜若年成人)における上腕動脈のFMDを、自動計測装置を用いて測定することにより、血管内皮機能障害の有無を検討した。対象は,川崎病に罹患し,冠動脈障害を有する20例(KD-CAL群:男16例 女4例 年齢11歳〜30歳:中央値 18歳)とし、正常ボランテイア5例(Control群:男4例  女1例 年齢 23歳〜33歳:中央値29歳)と比較検討した。
【方法】FMD検査は、絶食のうえ午前中に、同一の検者によってユネクスEF18Gを用いて施行した。収縮期最高血圧+50mmHgの圧で4分30秒間圧迫し,圧迫を解除後、血管の拡張が経時的に記録され、%FMDが算出される。また、内皮非依存性血管拡張反応の指標として、ニトログリセリン(NTG) 300μgを舌下に噴霧し、NTG投与前後で%NTGも測定した。
【結果】)%FMDは、KD-CAL群 7.0±6.3%に対し、Control群は7.1±2.4%であり有意差はみられなかった。KD-CAL群の5例 (25%)においてFMDは4%未満であった。
【考察】川崎病による冠動脈障害のある患者において末梢動脈の血管内皮機能の低下はないと判断された。しかし、今回の研究の問題点として、 Control群において数が少ないことと年齢が高めであることが挙げられる。また、FMDが4%未満の症例が25%にみられ、急性期の冠動脈炎、冠動脈障害の重症度との関連についても検討が必要である。
52. 成人期に達した川崎病既往の重症冠動脈障害例の予後評価 :川崎病既往のない若年発症の心筋梗塞症例と比較
Prognosis in Kawasaki disease patients with severe coronary artery leisions compaired with young patients with myocardinal infarction without Kawasaki diease.

宮下理夫 唐澤賢祐 福原淳示 市川理恵 阿部 修 谷口和夫 金丸 浩 鮎沢 衛 住友直方 麦島秀雄 (日本大学医学部小児科)
Michio Miyashita Kensuke Karasawa jyunji Fukuhara Rie Ichikawa Osamu Abe Kazuo Taniguchi Hiroshi Kanamaru Mamoru Ayusawa Naokata Sumitomo Hideo Mugishima (Nihon University school of Medicine department of pediatrics)
【目的】重症な冠動脈障害を有する成人期に達した川崎病症例と、川崎病既往のない若年発症の心筋梗塞症例について、冠動脈造影所見、遠隔期心機能、QOLを比較検討し予後を評価した。
【対象】成人した川崎病冠動脈障害18例(平均23歳、男10女8名)で、全例急性期に冠動脈瘤を形成し、遠隔期に冠動脈イベントを認めている。若年性心筋梗塞は21例(平均35歳、男15女6名)で川崎病の既往や冠動脈奇形がない40歳以下で心筋梗塞を発症した症例を対象とした。
【方法】冠動脈造影所見として、病変部位、石灰化、瘤形成の有無、狭窄形態:閉塞か高度狭窄か、再疎通の有無、側副循環の有無、遠隔期心機能、QOL、投薬内容について後方視的に調査した。
【結果】川崎病冠動脈障害例の方が川崎病既往のない若年発症の心筋梗塞よりも遠隔期の心機能が良く、冠動脈の再疎通の率も高い傾向あった。
【結論】川崎病冠動脈障害例の予後は、川崎病既往のない若年発症の心筋梗塞症例に比べよい傾向がみられた。これは川崎病による冠動脈瘤が要因の心血管イベントとメタボリックシンドロームに伴う心血管イベントとは病態が異なるためと考えられた。